【 The way we do. 】
◆D7Aqr.apsM




166 名前: ◆D7Aqr.apsM :2006/08/13(日) 23:58:00.83 ID:x4petlhN0
丸いライトが二つ。高速道をひた走っていた。
街頭があれば、銀色のなめらかな曲線に包まれたボディが、数々の銃弾でえぐられているのが見えるだろう。
咳き込むような音を混ぜながら、エンジン音が小さくなり、車はトンネルの手前で止まった。
運転席のドアが開くと、タキシードを着た男が降りた。後席のドアを開く。
「さて、ここまでです。ここからはサイモンさん、あなたとシンシアで行ってください。港で落ち合う倉庫は
さっき確認した通りです」
「ランド。貴方は何を!このまま全員で港まで行くのではないのですか」
「追跡を振り切ってここまでこれたのは、ボーナスみたいなもんだ。ここで食い止める。先に行ってくれ」
「このまま全速で走っていけば間に合うのでは――」
「無理だし、港に警察の戦闘車を誘導するわけにはいかない。わかってくれ」
無理矢理にサイモンの腕をとり、運転席へ押し込むようにする。助手席に座っているシンシアと目が合った。
堅く握られた手が、つい、と胸の前で十字を切る。
「ご加護を」
「ああ、そう祈りたいね」
「ランド。荷物は全部おろしたよ」
後席から降りたイブニングドレス姿の女性がトランクから自分の背丈ほどもあるケースと、大きなバッグを一つ取り出していた。

「さ、行ってくれ。ここからは俺たちの舞台だ」
ランドが運転席のドアを閉める。エンジンがスタートされると、弾痕だらけの外装にもかかわらず、何事も無かったかのような音を立てた。
「ご武運を」
サイモンはいつもの癖なのか、お嬢様の頭を揺らさないようにゆっくりと車をスタートさせた。
一つだけ残ったテールランプが照明の消えた暗闇の中に赤くにじむ。

「フェーイ?なあ、もう少しこう、遮蔽物を探してみるとかしないか?」
ランドが振り向くと、イブニングドレス姿のフェーイは道の真ん中でライフルケースを開けていた。
マシンガンの弾倉を抜き取り、残段数を数えながら声をかける。
「トンネルの中の待避所とかあるだろ?」
「――無駄。ヤツのコイルガンはコンクリートごと貫通する。同じなら、狙いやすい方がいい」
「しゃーねえなあ。つきあうよ」

167 名前: ◆D7Aqr.apsM :2006/08/13(日) 23:58:36.21 ID:x4petlhN0
二脚を開いて、フェーイはライフルを固定し、伏射の姿勢を取る為に寝ころんだ。足を振ってヒールを脱いだ。
その脇に、スコープを持ってしゃがみ込む。
「ランドは離れていてくれていい。一人でやれる射撃だから」
「狙撃はペアでやるもんだろう?――This is the way we do―これが俺らのやり方だろう」
フェーイはだまったままスコープをのぞき込んだ。

ヤツの、甲高い悲鳴のようなエンジン音があたりに響きはじめる。
闇の中に伏せる人間を見つけるのは至難の業だろう。
「来た」
3km先にしかけた地雷が爆発した。
赤黒い炎に煽られて、ヤツの車体がシルエットになって見える。次々と作動する地雷をものともせず、ヤツは進んでくる。
ヤツの射程は走行中はそれ程長くない。ならこちらにも勝算はある。
「1500メートル」
普通のライフルじゃあダメだ。
アンチマテリアルライフル。
装甲車などを相手にするために作り出されたライフルの化け物。直撃するとあまりにも無惨な結果をもたらすために人を狙撃する事を禁じられた銃器。
「いけっ」
ささやくように口にする。
フェーイがほぼ同時に引き金を絞る。銃口からのマズルフラッシュがあたりを照らす。
二脚がアスファルトにめり込み、伏射の姿勢をとっているフェーイの体がずり下がる。
まるで踊りの振り付けをしているような、なめらかな手の動きで弾丸が連射される。

170 名前: ◆D7Aqr.apsM :2006/08/13(日) 23:59:33.76 ID:x4petlhN0
弾丸が命中するたびに、ヤツの車体は打ち据えられた犬のようにふるえ、蛇行しながらも前に進んでいた。
「ラスト」
フェーイが最後の弾丸を宣言する。ヤツを見るのに既にスコープは要らない。
弾丸命中すると車体が大きくかしいだ。スピンしながら、それでも止まらない。
発射音と同時に、ランドはスコープを捨て、フェーイを抱きかかえるようにして飛んだ。
かすめるようにしてヤツが轟音を立てて通り過ぎる。
フェーイは抱きかかえていたライフルへ新しい弾倉を装填してかまえた。
トンネルの中から、激しい激突音。そして、激しい炎がふきだした。
「This is our way.ランド、作戦完了した」
「了解」
ランドがつぶやくようにいい、大きくため息をついた。



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