【 故郷 】
◆InwGZIAUcs




169 名前:故郷1/4 ◆InwGZIAUcs :2006/08/13(日) 23:59:20.61 ID:FXNGPMU00
「王都への道はこの街道を通って行くしかないんだ」
王都へ向かう青年は、立ち寄った村で聞いた言葉を頼りに街道を進む。
「でもその道は今魔女の仕業で通れないんだよ」
付け加えて聞いた言葉が引っかかるが、進まないことには始まらない。
街道は森に囲まれた一本道で、同じような景色が続く為、気が滅入ってくる。
しかし、魔女が邪魔しているはずの地点には中々辿り着く気配がない。
時期に村が見えてきた。
その村は出発したはずの村である。
何故ならば、親切に教えてくれた村人が村の入り口にいるだけでなく、
木を組み合わせて立ち並ぶ、独特な家々に見覚えがあったからだ。
「おや?ひょっとして街道を通ってきたのかい?
『今は魔女の仕業で通ることはできないよ』と、言わなかったかい?」
「……興味があったんです」
その村人が話しかけてきた。少々ばつが悪い為、青年は適当な理由を答えた。
「魔女は何の為か知らないが、村を孤立させ滅ぼす気でいるに違いない。
もしも本当に村を出たいなら、村の西外れに住む当人の所に行ってみるといい。
まあ同じ魔法がかけられてて辿り着くことはできないだろうけどな」
村人は言い終え、「はは」と力なく笑い、村の中心へと去っていった
――こんな場所でのんびりしてる暇はない。。
青年は言われた通り、村の西外れに行く為の獣道をひたすら進んだ。
すると正面の空間が、水面に落ちた滴がつくる波紋のように歪みだした。
「これは……」
――きっと魔女が手招いている。
青年はそう信じて波紋の中へと進む。
しかし、進めば進むほど景色が歪み、方向感覚も分からなくなってくる。
それでも青年は前へと進んだ。
すると、歪みは晴れ、目の前には生活臭漂う一軒の小屋が建っていた。
青年は、多少の疲労を感じながら、その小屋のドアにノックをして中に入る。
「ようやくきたねぇ……あんたのことはこの村に入った時からずっと見ていたよ」

171 名前:2/4 :2006/08/13(日) 23:59:50.60 ID:FXNGPMU00
家の中では、老婆が椅子に腰掛け編み物をしていた。
「あなたが街道に魔法をかけている魔女ですか?」
「ああそうだよ」
素っ気ない返事に気にするでもなく青年は続ける。世間話をする気は毛頭無い。
「魔法を解除してもらえませんか」
「……お前さん、なんで魔法を仕掛けているか解るかい?」
青年は黙った。その反応を見て魔女は言葉を続ける。
「ここ一週間の内に暴走した魔物がこの村に入ろうとしたのは15回程。つまり魔法は外敵から守っているのさ。
暴走はあと三日もすれば終わる……そうすれば魔法も解除する……お前さんはその時出て行きな」
「……これを」
少年は懐から大きな水晶を取り出した。
「ほう。これは随分物騒な物を持ってるね。破壊水晶……それも都一つ破壊できる代物だ……お前さん、
まさか王都を潰しに行く気かい?」
「そうです」
「ふん。どんな事情があるか知らないがろくな事にならないよ。つまり、お前さんは時間が無いって言いたいわけだ。
確かに破壊水晶は摂取した時から少しずつ威力が下がっていくからね」
魔女は編んでいる手を止め青年を見つめた。
「よろしい。お前さんだけ通してあげよう。しかし、お前さんの覚悟が本物だった場合のみだ……
あと、これを持って行きなさい。道を脱けることができたら開けな」
魔女は小箱を青年に渡すと、再び編み物へと手を戻した。
「ありがとうございます。あと村人には俺から説明しておきますよ」
青年なりの礼のつもりであった。
「ふん! いらないことはするもんじゃないよ……」
小言を言いながらも、魔女は少し嬉しそうだ。
村に戻り村長に事情を説明し終えた青年は、早速王都への街道を進んだ。
すると、魔女の小屋に入る前に現れた、空間の波紋が青年の前方に広がる。
今度は臆することなくその中へと進んでいった。
前と同じように空間は歪み、景色も歪む。それらが晴れたとき、青年は王都の目の前にいた。
森の街道を脱けた後、しばらく歩いた所に王都はあるはずである。

172 名前:3/4 :2006/08/14(月) 00:00:20.86 ID:Qtj4aV2s0
――魔女が運んでくれたのか?
青年は、疑問を抱えたまま都の中へと進んだ。
都で一番高い塔は街の中央にあり、水晶を破壊し街を吹き飛ばすには、丁度いい場所である。
いや、その塔を選ばない手はない。
「……終わりだ」
塔の最上階は吹き抜けになっており、そこから都の様子がとてもよく伺えた。
都はとても平和で活気が溢れており、笑い声や子供達の遊ぶ声、
青年にはこの都の全てが幸せにしか見えなかった。
――これを壊すんだ……駄目だ、忘れちゃいけない。俺の街は……この王都の人間に焼き払われたんだ!
 今度は俺が焼き払う。俺は……壊す!」
意を決して青年は破壊水晶を最上階から落とした。
その軌跡は軽い放物線を描いた後、垂直に落下していく。
地面と接触した水晶は、ガラスを割ったような高い破裂音と共に閃光を放ち、全てを白光で包みこんでいった。

目を覚ましたとき、周りは焦土と化していた。止まない熱気、瓦礫、死体、それにに寄りすがる人々。
いずれにしても、目を背けたくなる無惨な光景である。
青年は見渡して自分のした事に初めて気がつき、手を震わせた。
――俺は……こんな事がしたかったのか……。意味がない。なんの意味もない!
 これでは誰も帰ってこない! 母さんも父さんも! ……意味が、無い。
「なんでだよ……」
青年が呟く。すると、景色が歪み再び白光に包まれた。
光が収まり青年は辺りを見渡す。そこは見覚えのある道の上であった。
その時、懐から魔女に貰った小箱が落ちる。その衝撃で、その小箱の蓋が開いた。
すると小箱から魔女の声が聞こえだした。
「やあ坊や。ろくなものじゃなかったろう?全てはワシの見せた幻。お前さんのしようとしてる事を体験させてやったよ。」
青年は言葉を失う。魔女はさらに続けた。
「良い事を教えてやろう。その水晶、破壊と創造が表裏一体でな、時間が経つと破壊する力は消るが、
代わりに創造の力、物を直す力が宿るのだよ」
青年は魔女の言いたいことを理解して答えた。

173 名前:4/4 :2006/08/14(月) 00:00:50.81 ID:Qtj4aV2s0
「その力を使えと?」
「それはお前さん次第だ。街は水晶で直せても、人は蘇りはしない。しかしな、
もう破壊水晶を使うつもりはないのだろう?」
「まあ……な」
――最初からお見通しか……幻を見た後の俺の気持までも。
少年は自分の立っている場所にようやく気付き、魔女に感服していた。
そこは王都への街道を村で挟んだ反対側の道、青年が村に訪れる時に通った道である。
つまり、青年が立っている道は、故郷へと続く道である。

終わり



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