【 天の道 】
◆8vvmZ1F6dQ




157 名前: ◆8vvmZ1F6dQ :2006/08/13(日) 23:44:53.54 ID:YARy+44j0
「天の川な、あれな、乙姫と彦星を結ぶ道なんだぞ」
と、達彦は梓に言った。
梓は頭を達彦の肩に預けたまま、くすくすと笑った。
「知ってるわよ」
「考えてみれば壮大な話だよな」
達彦は満点の星空に拳を掲げた。
今夜の空は、雲が多く、月が見えない。
だが、デートの後に、公園のベンチで語らっていた達彦と梓の目の前に、
ふいに雲が晴れ天の川が現れたのだ。
今日は二人が出会って二ヶ月記念の、ちょっとだけ特別の日だった。
「あら、でも」
梓が言う。
「道じゃなくて、川でしょう。天の川なんだから」
「いいや道だね。そもそも、川も道も一緒だと俺は思う」
「あらまあ」
達彦は自分の否を認めない性格である。梓はそういう子供っぽさが好きだった。
「まあ、私も、乙姫と彦星を結ぶのは道だと思うわ」
「うん、そうだ」
二人は声を潜めて笑った。

158 名前: ◆8vvmZ1F6dQ :2006/08/13(日) 23:45:45.91 ID:YARy+44j0
その時、雲が揺らめき天の川に覆いかぶさろうとしていた。
地上がふいに暗くなる。
「あ」
梓が声をあげた。
「もう、私帰らなきゃ」
「ええ? まだいいだろう」
立ち上がった梓を、達彦が座らせようとする。が、梓は振り払った。
「今帰らなきゃ、先輩みたいに一年に一日だけになっちゃうの」
瞬間、梓の身体が宙に浮く。梓の身体を光が取り囲んだ。
達彦は開いた口がふさがらなかった。なんだこの状況は、と頭の中で何回も繰り返した。
「私たちの間にあるのは、急流の川なんかじゃなくて、緩やかで歩きやすい道。
 来年の夏、また一緒にいようね。待っててね、私、道を歩いてくるから」
そう言い残し、梓は天の川の方へと飛んで行った。
達彦は、いきなり身に降りかかったメルヘンな出来事を受け入れるのに、何日もかかったのだった……

おわり



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