【 道の集まる所 】
◆ohRoMAnyXY




118 名前:その1 ◆ohRoMAnyXY :2006/08/13(日) 22:16:36.07 ID:Tlqtq4ae0
カツッ。
ふとした拍子に体勢が崩れた。
咄嗟に倒れまいと踏ん張ったが、それも虚しくつんのめってしまった。
身体を丸め、顎を引いて受身を取る。
身体が数回、転がってようやく止まった。
思いのほか、派手にこけた。
幸いどこも痛くない。怪我はせずにすんだようだ。

一体何に蹴躓いたんだろうと思い、立ち上がって後ろを見たが、特にこれと言って何もない。
それどころか本当に何も無いのだ。
自分が立っている道以外が。
私がいる。
前後に伸びる道。
先は濃霧でよく見えず、後方は暗闇で見えない。
左右も漆黒に包まれている。
見上げればそこに青空は無く、靄が立ち込め視界はゼロに等しい。
ここは何処だ。
そもそも何でここにいる。
どうやってきたんだ。
今何時だ。
疑問ばかりが口を衝いて出ては、虚空に消えていった。
が、状況は何も変わりはしない。良くも悪くも成りはしない。

歩くか。
一まずそうすることにした。
ここに留まっていたって仕方が無い。
さて、どの方向へ向かうべきか。
左右や後ろは暗すぎる。歩くのには不向きだろう。
となるとやはり前に進むしかないようだ。
歩くか。

119 名前:その2 ◆ohRoMAnyXY :2006/08/13(日) 22:17:19.99 ID:Tlqtq4ae0
先ほどとなんら変わらない光景が延々続いている。
いい加減ウンザリすると共に一抹の不安が起こってきた。
このまま、これがずっと続くんじゃなかろうな……。
しかし、どうやら杞憂だったようだ。
先に何かが見えてきた。
私は安堵し駆け足でそこに向かった。


またもや奇妙な場所だった。
広場だ。直径10mぐらいだろうか。。
中央に簡素な噴水がある。前に恐らく看板が一つ。
設置物はそれだけだ。
そして何より妙なのがそこから続く道の多さだ。
100か、1000か、いやもっとだろうか。
大小無数の道がその広場に繋がっていた。

暫し呆気に取られていたが、ふと噴水に眼をやると
そこにヒトがいた。
色々と聞きたかったので近づいてみた。

俯いている。眠っているのだろうか。
何にせよ私は話しかけた
「あのーすいません。」
すると顔を上げた。
年のころ15ぐらいだろうか。まだ少年といった感じだ。
「こんにちは。」
少年は無邪気な笑顔で言った。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ええ、かまいませんよ。」
さて何から聞いたものやら……。

120 名前:その3 ◆ohRoMAnyXY :2006/08/13(日) 22:18:29.05 ID:Tlqtq4ae0
取り敢えず
「ここはどこですか。」
「『道の集まる場所』です。」
容量をえない答えだ。
「あの何県ですか。」
少年は頭を振り、答えなかった。
「じゃ何国ですか。」
またも頭を振った。
「じゃ一体全体ここは何処なんでです。」
「『道の集まる場所』です。」
私は少々ムッとして、
「なんださっきから訳のわからない。答えてくれてもいいじゃないか。」
少年はやれやれといった仕草を見せてこう言った。
「あなたは質問を間違えている。何処か以外にもっと聞くべきことがあるでしょう。」
そう言われたので少し考え、思いつく限り聞いてみた。
「なんでここにいるのか。」
「そうじゃない。」
「どうやってきたのか。」
「まだ違う。」
「今何時だ。」
「もう少し考えて下さいよ。」
暫し眼を瞑り、熟考してみる。ふと一つ引っかかるものがあった。
「『道』ってなんのことだい。」
少年はにこりと笑った。
「それですよそう。それならお教えしましょう。」

121 名前:その4 ◆ohRoMAnyXY :2006/08/13(日) 22:18:59.70 ID:Tlqtq4ae0
「貴方の範疇で表現するなら人生ってところでしょうか。人が歩んだ人生そのものなんですよあの道は。」
ほう興味深い話だ。ではそんな所にいる私は何なのだろう……、死んだのか。
「ちょっと違いますね。死んだんじゃなくてとっくの昔に死んでるんですよ。」
ほうこれまた興味深い。私が口に出さなくても通じていることも興味深いがそれ以上だ。
「みんなここに集まってくるんですよ。何でか知りませんがね。」
だから『道の集まる場所』か。
「その通り。でね、時々いるんですよ。あなたやボクみたいな人。自分の人生をもう一度歩いてやってくる人。」
へぇそうなのか。
「で、向こうの大きな道。あの先がいわゆる一つのゴールってヤツです。意識が飛んで再び無に帰します。」


そこまで聞いて私は今後どうすべきなのか解らなくなった。
正直自分自ら消えたくはなかったからだ。

「なんなここに留まりますか。」
少年は意外な提案をしてきた。
「意外とおもしろいですよここも。他人の道が見放題、歩き放題。意識だけですから衣食住などはなんら必要になりませんし。」
少年は饒舌に語り、私の心はその提案にのった。。
残るかな。
「決定ですね。」
すると少年は立ち上がりおもむろに
「じゃあとよろしく。」と立ち去っていった。
消える間際に一言残して
「次の人が来るまで……ね。」
次の人……。

122 名前:その5 ◆ohRoMAnyXY :2006/08/13(日) 22:19:30.37 ID:Tlqtq4ae0
あれから解ったこと。
ここには誰か一人常駐していなくてはならないらしく、どうやら私は次のが来るまでここを抜けられないようだ。
少年が教えてくれなかったのは、たぶん教えたら自分が抜けられないと思ったからだろう。
まぁ、今となってはどうでもいいことだ。
今のところは楽しく『道』を楽しく観賞し、遊んでいる。
人とはなんと愚かなことだ。
騙し、騙されそれに気付かない。
哀れなものだ。
道を見ていると真にそう思う。

実に興味深くまだ飽きそうにも無い。
そのうち次の人がくるだろう。
それまでは楽しませてもらうとしよう。
本当に何時になるのか解らないのが少々気がかりだが。
ああ本当に人は馬鹿だ。









後々私もその一人だと気付くのだが。



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