>>24「道」
世界に飛び回るサンタアンダー村。
今年もサンタの季節がやってきた。白い雪が降りしきる中、今回で引退のサンタの道を降りるおじさんがいた。
袋にせっせと子どものおもちゃ、大人のおもちゃを入れ、にやける。
子どもたちの喜ぶ姿が目に浮かび、彼はそれだけで幸せなのだ。
言ってしまうのなら彼には四才の娘がいた。
今日まで生きていられたのなら十七才になる。
そう、十三年前――娘ことマナ・ムスーメは猫のぬいぐるみを買う途中、バック転の途中でショック死をした。
否、バック転というより立ちブリッジのほうが的確かもしれない。
おじさんはそんなマナの最後の言葉は今でも覚えている。
――とうぁ。
マナはこの一言を残して、人生という道からリタイアすることになったのだ。
あまりにも短い距離であった。たった四年ほどしか一緒に歩んでいないのだ。
おじさんは頭を横に振る。そして少しの間、悲しいマナの過去を忘れようとする。
なぜなら、今から子どもたちにの笑顔を作るために、悲しい顔をしていたらだめだという思いからだろう。
サンタは子どもたちに夢を与え、笑顔を配り、愛を届けるのだ。
準備ができたおじさんは大きな袋を抱え、雪の空を見上げて。
「マナ、一緒に行こうか。そして最後の道を歩もう」
そう、小さく呟いた。
317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/12(土) 06:35:09.26 ID:sHnnWMqU0
深夜。雪はまだ降り続いている。
そのおかげで道路は白一面であった。
おじさんの向かうところは合計して二十件。
一つ一つ丁寧に仕事をこなしてゆく。
もちろん子どもたちに気付かれずにひそかに、またちょっとかまってもらいたくて勇み足で。
そして最後。
おじさんは見事なピッキングを魅せて、家に入っていく。
廊下は暗い。
「たしか、二階――だったよな」
階段をのぼっていく。
また暗い廊下が続いている。
おじさんはつきあたりまで歩き、ドアを開けた。
するとマナと同じくらいの子が寝ていた。
寝顔も似ていて、おじさんはつい、サンタとしての仕事を忘れかけていた。
「おっと、いけない」
枕元にプレゼントを置く。
おじさんはこれで、仕事が終わったのである。
ふと、テーブルの上に手紙が置いてあった。
「サンタさん、ありがとう。また来てね、真奈より」
おじさんは、涙を流すことはできなかった。
泣いてしまっては、サンタ失格ではないかと。
子どもの前で涙を見せることなんてできない。
だったら、とっとと帰ってしまおう。
おじさんはドアに足を向けた。すると、そこには異質、ここにいてはならない人がいた。
この真奈の父でも母でもない。一人の見知らぬ男が立っていた。
318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/12(土) 06:35:35.88 ID:sHnnWMqU0
「お前、誰だ。俺の真奈のなんなんだ」
男はポケットからナイフを取り出す。
おじさんは男のほうへ悠々と歩いていった。
「わしは真奈ちゃんの知り合いでもない。ただのサンタ」
おじさんは白いひげの一本を抜く。
「――ッ。意外に痛いんだな。これを使うのは初めてだ」
「何を言っている」
男は走り出す。おじさんを刺すには、きっと二秒もかからないだろう。
おじさんはただ黙って、真奈を起こさぬよう、静かにこう告げた。
「一緒に同じ道を歩もうか。これは死への道」
二人は白い炎に包まれる。
これはおじさんの誰にも負けない強さである。
死んでも、この少女を守るという決意のあらわれか――。
なんだ、これは。男は小さく呟く。
サンタのたった一つの護身法だよ。おじさん、否、サンタはそう告げた。
そしてサンタは真奈の手紙をポケットに入れる。
ふと、静かに、消滅した。
これでサンタの道は閉ざされ、そのあとに続いた道までも閉ざされた。
けれどサンタは少女――真奈の道を開いたのだ。
きっと頭の中に過ぎったであろう、少女の笑顔を。
319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/12(土) 06:36:03.44 ID:sHnnWMqU0
翌日、真奈は起床した。
枕元にある猫のぬいぐるみを見つけ、抱きしめる。
「サンタさんかなぁ〜」
テーブルに置いてあった手紙のないと気付き、それは確信した。
けど、一つだけ、違ったものがあった。
「ゆき?」
床には小さな一粒の雪結晶があった。
ほんとに小さな、輝いているような結晶。
少女の好奇心からか、指先で溶けた部分をすくいとってなめてみる。
「うっ、しょっぱい」
真奈はその結晶を指で擦り合わせて砕く。
「なめちゃまずかったかな」
まぁいいや、と言って、一階に駆け下りた。 了