【 If the world ends 】
◆Pj925QdrfE




499 名前:If the world ends ◆Pj925QdrfE :2006/08/06(日) 22:13:34.20 ID:2bObGkc70
 短く、低く、そして重たい雷鳴が雨の様に降り注ぐ。
光や電波を遮断したこのシェルターにおいて、雷の存在を知らせてくれるのはその音のみであり、
そんな部屋に閉じ込められた私は、今日も何時と知れぬ世界の終わりをカウントダウンしながら生きているのである。
 電力の供給が止まってどれほど経つだろう。世界に棲みつく全ての生物から隔離されている部屋。
私の呼吸音だけがこの小さな世界を無ではないものにしていた。
 そして今日の雷鳴だ。無数に落ちてくる音達は世界終結のファンファーレにふさわしいものである。
その輪郭ははっきりしないながらも、この星に生きる最後の生物として
このような神曲を聴けたということは、無上の名誉であろう。

 今の私に至るまでのプロセスとして、おおよそ発狂などと呼ばれる行為は全て行ったと思える。
たった一つのドアが外部の環境を察知して自働ロックをかけてからは方角の感覚が無くなり、
電気が止まって時計の針が動かなくなってからは時間の感覚が失われ、視覚さえもが奪われた。
食料、水分はどれだけ残っているのだろう。電気が無ければ、冷凍保存のイージーミールなどは
何の役にも立たない。よって味覚を感じる手段が無くなってしまい、残ったのは聴覚と触覚、そして僅かな
嗅覚のみ、ということになる。
 世界が壊れていくのとおなじように、私も少しずつ失っていったのだ。

 私は静かに、それこそ呼吸すら止めたかのように静かに、研ぎ澄まされた残りの感覚で神の演奏を受け入れる。
一定の規律にとらわれないリズムで、世界の創造を思わせるような低音の群れ。数多の輪廻を繰り返して行き着いた先、
轟々と降り注いできた音の波に、私は脳を蕩かされそうになりながら身体を預けた。


「――すごいわね」
「あぁ。本当に。見とれちゃうな」
「こんな近くで見れるなんてね。花火」
「来年も、また来よう」
 最後の一発が打ち上げられた後、その音の余韻に脚をふらつかせながら、ささやかな通りを歩きはじめる一組の男女。
彼らが先刻腰を掛けていたその場所は、角ばって四角く、分厚い岩の上だった。



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