【 黄昏の国 】
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342 名前:黄昏の国 / のれん :2006/08/06(日) 02:59:02.97 ID:2FpLrv1A0
「そうして今歴史が刻まれようとしています!過去に敵として争った経緯のある両国が一つに!光の時代がやってきます!」
隣国同士が、過去の争いを水に流すため、一つの新しい国として再出発する。今日はその記念すべき日だった。
調印式が行われるホールの外では、まるでスポーツを観戦するかのように巨大なモニタが掲げられ、
大きなスピーカーからは祝辞を読み上げる政治家の声が響いていた。
あたりには両国の併合を歓迎する人々が、酔ったような瞳で隣国の小旗を振り続けている。

「なあ、どうなんだろうな?実際?」
記念式典広場に面したビルの一室。テーブルに革靴を履いたままの足をどかん、と放り上げた男が吐き捨てる。
「どうって?……テーブルに足をのせないでよ」
キッチンからカップに飲み物を入れた女が顔をしかめた。ポニーテールを青いリボンで止めている。
「喜ぶ所なのかね?」
「まあ……戦いもなく併合だから、歓迎する人はするのでしょうけど」
「ふん。軍人が弾代けちったな」
「またそういう言い方をする……平和が一番ですよ」
「そりゃあそうだな。じゃあ二番は何だかしってるか?」
男はぐいっとカップの中身を飲み干して立ち上がる。脇に置いてあった黒いギターケースを持ち上げる。
「それをこれから見に行こう」
屋上へ通じるドアを開くと、広場の向こうに国境のゲートが見えた。少ししてわああっ!と歓声があがった。調印が終わったようだ。
国境の、大きな扉が開かれていくと、そこには隣国のトレーラーが連なっていた。荷台の幌の下はパレードの山車が入っているというふれこみだ。
トレーラーが広場の真ん中まで進むと、幌が異様な音を立てて裂ける。
小旗を振って盛り上がっていた人々の顔が凍り付く。滑り落ちる幌の中から出てきたモノは――戦車だった。
砲塔をめぐらし、砲身が自分たちの方へ向けられてはじめて、人々は悲鳴を上げた。

「な?答えがわかっただろ?」
男はギターケースを足下に置き、4カ所ある留め金を外した。ケースの中身はギターではなかった。
戦車が広場を縦横無尽に走り始め、人々を追い立てる。男はケースから取り出したRPGを肩に担いだ。
トリガーが引かれると軽い音がしてロケット弾が発射される。一台の戦車が炎に包まれた。
女は悲しそうな顔で、ケースから次弾を取り出す。
「戦い続けられれば、それが平和の次にいい。それが暗闇の世界の中だとしても」
次弾が発射される。



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