【 アイ 】
◆CUZLM8U3vI




267 名前:アイ ◆CUZLM8U3vI :2006/08/06(日) 00:54:09.26 ID:DZcTgUlN0
「僕は眼なんです。彼女の眼だったんです。」 

僕が高校生一年だった時、亜紀という女子を失明させてしまった。 先生に頼まれ棚の上にあった硫酸を取ろうとして手を滑らせたせいだ。
亜紀が「眼が見えない」と叫び泣いたのを覚えている。
僕は放課後すぐに彼女の親御さんに謝りに行った。
母親は泣き、父親は怒り、亜紀は親の横でうなだれるだけだった。
当たり前に過ごしてきた光ある生活を失って光なき世界へと足を踏み入れた亜紀はどう生きていくのだろうか…
「僕が君の眼になる」気づいたら口が言葉を紡いでいた。
次の日から学校まで行くのには手をつなぎリードし、先生に無理を言って隣の席にしてもらい、彼女の世話をした。
流石に女子トイレにはいけないので知り合いの女子にまかせたが。
世話をしているうちに俺は彼女のことが好きになっていった。
眼が見えなくても彼女は僕のいる場所を分かるようで彼女の光を失った眼が僕を捉えることは度々あった。
その眼が僕に語りかける――君がいなかったら… 
高校の卒業式が終わってから家に戻る途中
「今までありがとね、二年近くも世話してもらっちゃって」そういった彼女は微笑んでいた。
「二年間も俺みたいなのがずっと近くにいて悪かったな 少しは役に立てたか?」
「少しはね。けど余り役に立たなかったかな」
「二年間それなりに頑張ったんだけどな」
「役に立たないんだからさ もう私なんかの世話をやめて」今までのふざけた雰囲気を払拭するように、俺を見つめながらそういった。
突然のことで何も言えずにいると畳み掛けるかのように
「大体罪滅ぼしでここまでやられたらこっちが困るのアレは事故だったし今は誰もあなたを責めやしないだからだからもう私になん」
僕が最後に見た彼女は血で紅く染まっていて今までで一番綺麗だった。

「それで終わりか」 厳しい顔の刑事はペンで机を叩きながらそう僕に尋ねた。
「えぇ」
「亜紀だっけ、そいつも可哀想だな、おそらくお前が自分に縛られてると思って悪役を演じたろうに」
「分かっていました、けど力になろうとしていた二年間を無駄だったと言われた様で…」
「最近のガキはわかんねぇ まるで暗闇を覗き込むようだ」刑事はため息をついて立ち上がった。



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