【 消え去る世界 】
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210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/08/05(土) 22:27:41.16 ID:VatQL5160
『消え去る世界』
気がついて目を覚ますと、さっきまでの青空が消えていた。
見上げた空は一面の黒雲。そして周りからは轟音が聞こえてくる。
あれ、僕は何をしてたんだろう……
朝、学校に向かっていたことまでは覚えている。
その後……その後……
考えようとしたが、頭に鈍い痛みが走ってそれを邪魔した。
目覚めはいい方なのに、なぜか今はものすごく体が重たい。
何はともあれ、こんな道端で寝ているわけにはいかない。
よっという掛け声と共に起き上がろうとしたが、起き上がれなかった。
それどころか、声も出ない。
まるで、自分の体が自分のものじゃないみたいに、全く力が入らない。
僕、どうしたんだろう?
急に、恐ろしいほどの不安が襲ってきた。
体からは若干ながら痛みが走っている。
起き上がることもできないから、どうなってるかも全く分からない。
もう一度体を起こそうと力を入れてみると、頭だけかすかに動いた。
その瞬間、首にものすごい痛みが走る。
僕は、声にならない悲鳴を上げて、のけぞった。
鈍い音と共に後頭部が打ち付けられ、その勢いで僕の頭は左向きに転がった。
後頭部が痛かったかどうかわからない。
ただ僕は、目の前の光景に唖然としていた。
真っ黒な地面。崩れ去った建物。あちこちで燃え盛る炎。
その中をゆっくりと歩く人々は皆真っ黒だった。
しばらくもしないうちに、目の前が暗くなっていく。
息も苦しくなってきた。
僕は、また、気を失うように眠りについた。

―1945年8月6日、広島にて―



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