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◆9Ju.E7kHgg




128 名前:***************◆9Ju.E7kHgg :2006/08/05(土) 17:07:30.13 ID:lhXz8zdt0
空は暗く、あたりは霞んだように見づらくて、僕は目を凝らしていた。
足元には花弁のように広がった、赤い水たまり。
その中には壊れ、奇妙な角度で曲がった人間が一人、落ちている。
「あ、そうか」
僕は、一人で納得する。
確かにこいつは憎まれていて、僕はそれを知っていた。
そして僕は、こいつを憎んでいたあの子を知っている。
だから、そう。まんまとはめられたのだ。あの子に。
人通りの少ないこんな裏通りで、バットを持って死体を眺めている僕は、傍から見れば殺人犯以外の何者でもない。
返り血がないのが、唯一の救いと言えるだろうか?
でも、賢いあの子のことだ。このバットにはたっぷりと、この死体の血が塗りつけられているだろう。
そしてもちろん、今までこれを握っていた僕の指紋は、残された時間では拭き取れないほど着いているだろう。
「たまんないなぁ。僕が捕まっちまう」
空を見上げて、僕はあの子に少しだけ愚痴った。
でもそれでも僕は、あの子を助けるって決めてたわけで。
あの子が、人殺しなんてそんなバカな事を犯してしまうようになっても、僕はあの子が好きなわけで。
「どうせなら、」
もう少しまともなやり方をしてくれれば、処分も簡単だったのに。撲殺なんて、色々飛び散って片付けられないじゃないか。
せめて死体を処分できれば、事件の発覚が防げた。
時間稼ぎくらいには、なったんだけどな。
でもさ、ほら。あの子の助けくらいはしてやれる。
あの子が昔いたずらした時みたいに、僕が犯人になってやるから。
サイレンが聞こえて、僕はバットを振り上げた。
どなり声が煩い。警察が物騒なものを構えてるのも、見てとれた。
しかし今の僕には、それこそ歓迎。
だって、もうこいつは死んでいるんだから。僕の役目は、終わっている。
かまわず僕は、バットを――。

僕の視界が黒く濁る。



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