【 「暗闇」&アレ 】
◆yeBookUgyo




102 名前:「暗闇」&アレ ◆yeBookUgyo :2006/08/05(土) 14:25:49.35 ID:MS4s+hbf0
「なあ、今のアレ見えたか」
学校からの帰り道。学園祭の準備で遅くなった私とシュウジは、駅まで歩いていた。
「はあ? アレって何よ」
「アレだよ。わかんないのか、今の目が三つ……」
住宅街の裏路地、その奥に続く闇に向かってシュウジは呟く。
「あーもう、また始まった訳?」
そう、まただ。シュウジとは幼稚園の頃からの友人だが、彼の妄想癖は留まる処を知らない。
そう思いながらも、シュウジの真剣な顔につられて不安が沸き起こってくる。
その不安を考えたくない私は、あえて強く否定する。
「ありえないから。どーせ外宇宙から来た存在だ、とか言うんでしょ」
「いやいや、もしそうだとしてだよ。俺は男だからなんとかなるかも知れないけどさ、ハルカは……」
「なにそれ? 男女差別ですぅ」
少し悪戯っぽく語りかける。身長差からして、私はシュウジを見上げなければならない。しかもこの口調だ。
効果は予想通り。シュウジは少し照れながら、それを隠そうと裏路地の方を見る。
してやったり、と思いながらシュウジの正面に回り込もうとした時。
ガタン。
二人とも硬直した。もちろん私はオカルトやSFなど信じないのだが、裏路地と夜、という絶妙な舞台設定があっては流石に怖い。
「え、え、ねっ……猫か何かでしょ?」
私の不安を感じ取ったのか、シュウジは裏路地へと足を踏み入れた。
「ちょっと見てくるわ」
「えっ、ちょっ、待ってよ」
シュウジの右肩に触れんばかりの距離で彼に付いて行った私は、アレの正体を見た。
にゃー。
不安を一瞬で吹き飛ばすその穏やかな鳴き声は、当然私とシュウジの笑いを誘った。
「ね?やっぱり猫だったじゃない!」
「いやー、今回は騙された! よし、お詫びに」
「えー、珍しい。そーねー、こんだけ脅かしてくれたんだったらパフェ……」
その時私は、猫の全身の内闇に隠れていた部分を見てしまった。
ボウガン。今増加している動物虐待の手口の一つ。猫の体には日本の矢が深々と刺さっていた。
猫の目には、底知れぬ闇が宿っていた。その闇は、どこまでも深く、そしてどす黒かった。



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