【 二人でひとつ 】
◆/y20.dkbKI




95 名前:二人でひとつ ◆/y20.dkbKI :2006/08/05(土) 13:55:18.47 ID:vQ3Gd1Lm0
放課後。就職相談室から、冴えない顔で出てくるシンジ。
力なく扉を閉めると、大きなため息をつき頭を抱える。
「どうだったよ」
シンジのことを、壁にもたれながら待っていたケンが、わざとらしく問う。
「どうもこうもねぇよ。さっぱりだ」
「ははは、だろうな」
人事といわんばかりに笑うケンに、思わず眉を顰めるシンジ。
「まぁいいじゃねぇか。とりあえずゲーセンでも行こうぜ」
ケンはシンジの肩をバシバシと叩くと、くるっと身を翻し、軽快な足取りで下駄箱に向かう。
シンジは自転車に跨ると、いつものようにケンを後ろに乗せる。
自分達が学生でいられる時間も後わずか。いつもの坂道を、いつもの男を後ろにのせて走る。
三年間、ずっと当たり前だと思っていた毎日が、最近とても大切な時間に感じる。
シンジは、ずっと聞きたかったことを思い切って聞いた。
「なぁ、なんでお前はそんなに落ち着いていられるんだ?」
「はぁ?なんだよそれ」
ブレザーを風に靡かせながら、ケンが笑う。
「お前も就職決まってねぇだろ。なんでそんなに余裕があるんだよ」
「さぁな。ま、なんとななるさ」
この言葉を聞くのは何度目だろう。ケンはよくこの言葉を使った。
能天気といえばそうだろう。しかし、そんなケンの事を、シンジは羨ましくも思っていた。
「お前は気楽だよなぁ。俺なんてお先真っ暗だってのに」
「ははは、真っ暗のほうがいいじゃねぇか」
「はぁ?なんでだよ」
怪訝そうな表情で、後ろに乗ったケンを見遣る。
「その方が楽しいだろ? 明かりの点いた夜道は安全だが、面白くねぇよ」
真面目に、しかし爽やかにそう答えるケンを見て、思わず吹き出してしまった。
「ははは、やっぱりお前は馬鹿だな」
「おう! お前もな」
シンジは自分のくだらない悩みを吹き飛ばすように、自転車のスピードを上げた。



BACK−暗躍 ◆InwGZIAUcs  |  INDEXへ  |  NEXT−「暗闇」&アレ ◆yeBookUgyo