【 戦闘シーン 】
◆5GkjU9JaiQ




304 名前:戦闘シーン1 ◆5GkjU9JaiQ 投稿日:2006/07/29(土) 19:54:20.49 ID:bH13f7HdO
老いた身体に鞭を打ち、老人は空を駈る。
跨る黒の龍とは数十年来の付き合いである。
老人の背丈の三倍はあろうかという龍だったが、双方共に認め合う存在だ。
静まり返った雲上の、抜けるような青空を舞う一人と一匹。
視界を覆うゴーグル。
その奥にある目には、老いた者の澱んだそれでなく、不敵な輝きが宿っている。
視界に写るのは、果てなく続く雲海のみ。


龍を駈り、龍を狩る。
鱗一枚、値千金。
皮、骨、肉ともなれば城が建つ。
その代償は死の危険。
龍を狩る者墓はいらずと言われたこの世界で、老人は生き永らえていた。



305 名前:戦闘シーン2 ◆5GkjU9JaiQ 投稿日:2006/07/29(土) 19:56:10.68 ID:bH13f7HdO
鼓膜を突き裂くような鋭い咆哮を聞き付け、灰の雲に飛び込む。
濡れるゴーグルを拭った時、老人は標的を捉えた。

薄暗く視界の悪い雲中に、燃え盛るような真紅の鱗。青く光る瞳。そして駈る龍の二倍はあろうかという体躯。

大物。

唇を舐めると、相棒の肩を叩き合図を送る。
黒龍は翼を大きく開き、敵意を示す。
赤龍もそれに応えるように、翼を大きく羽ばたかせた。
かくして、敵は乗った。
老人が剣を構えると共に、黒龍は巨駆の赤龍に迫った。

老人が描く剣閃は悉く岩石のように硬い鱗に弾かれる。
狙うのは刃の通る唯一の部位――腹部。
主義として目は傷付けない。
それが敵に払うべき敬意であると老人は信じている。
赤龍は身をくねらせて老人の執拗な攻撃を避け続けていた。
思考するようにその場を動かず、威厳を湛えた瞳を走らせ、
向かってくる黒龍、そしてその肩に乗る小さな人間を見据えている。

唐突に雷鳴が雲中に響いた。
雷光に視界を奪われた老人が体を伏せると同時に、強大な風圧が背中を襲う。
攻めに転じたか。
老人の思考の通り、背後に回った赤龍の喉から業火が吹き荒れた。
黒龍はうなりを上げて大きく上昇し、回避する。
こうなれば老人

306 名前:戦闘シーン3 ◆5GkjU9JaiQ 投稿日:2006/07/29(土) 19:57:03.36 ID:bH13f7HdO
こうなれば老人はただ身を屈めているしかない。
信頼を置く黒龍の動きに任せ、振り落とされないように必死にしがみつく。
赤龍は間を置かず大口を開けたまま黒龍を追い、噛み砕こうと牙を向ける。
だが身のこなしはやはり小さい黒龍に分があった。

攻め気が勝機。
老人は剣の柄を強く握り直し、意を決して顔を上げた。


目前に、赤龍。
その青い瞳が、真っ直ぐに老人を捉えていた。

それは一瞬の出来事だった。
だが、覚悟をするには十分な時間だ。

赤龍の顎が大きく開く。
黒龍は速度を上げ過ぎていて、避けきれない。

ああ、食われる。
畜生、俺達の負けだ。

そう腹の内で呟いたが、老人は笑っていた。
唇の端を力一杯に上げ、ゴーグルを額に掛ける。
外気に晒された老人の目は、死を目前としているにも関わらず、
野を駆ける少年の様な生気に満ちていた。


―了―



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