【 魔王と神 】
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241 名前:魔王と神1/3 投稿日:2006/07/29(土) 16:12:22.61 ID:DRxFFVNB0
その魔王はどれほどの勇者一行を屠ってきたであろうか?
 勇者と自称する卑小極まりない者達から、業物を持つに相応しい熟練された集団まで、まさに多種多様である。
それ故に魔王は百戦錬磨、強力無比な存在として、世界中に知られていた。
 ある日、たった一人の少年が城を訪れる。彼は王座まで辿り着くのに、並の勇者一行 がかける時間のおおよそ
半分もかからかった。少年は何の惜しみもなく魔王の部屋の扉を蹴り開けた。道中に殺してきたであろう魔物の
返り血を景気よく浴びた少年のマントや衣服は、血まみれでボロボロである。
 少年は臆することなく部屋の中に入り込み、王座に座る、以外に小柄な、そして人型をした魔王に話かける。
「あんたが魔抜けた魔王か?」
 魔王は知っていた。自分が世界に自ら害を及ぼす事のないことから、まさに間抜けな通り名が人の間で囁かれ
ていることを。
 苦笑を隠さず問いに答える。
「そうだ」
 少年は見ただけで強さを理解したのだろう。もう一つ魔王に問う。
「その強さを持ちながら、何故ここでじっとしている?」
 魔王は多少戸惑い少年を見る。少年の瞳に映る自分の姿。その自分の姿が少年の姿に重なるものを感じる。
魔王は答えた。
「心が弱いから・・・私はここにいる」
 期待していた答えではなかったのか少年は顔を曇らせた。しかし一瞬後、より目線を 鋭くした少年は血まみれ
の衣服を少しも気にせず直し、右手の大剣を魔王に向ける。その剣を持つ仕草はまるで、木の棒を扱うほどにし
か感じられない。
 「俺はあんたを、魔王を殺して神になる」
 その言葉が合図だったようだ。少年が放つ闘気のプレッシャーが魔王を襲う。それはかつて受けたことのない
ほどの力であった。
 少年はまさに疾風の如く、一足飛びで間合いを詰める。同時に、勢いに任せて大剣を振り下ろした。魔王はい
つの間にか手にした剣でそれを受け止める。
―――力半分といったところだろう。
 これはお互いが感じた感想であった。その一撃で部屋は崩れ、二人は瓦礫の上で対峙する。
 魔王は嬉しかった。今目の前にいる少年は自分と力が対等なのである。これが喜ばずにいられる訳がない。
孤独な魔王は、先ほど少年と自分の姿と重なったことから予測をしていた。おそらく少年も孤独。しかし少年は


242 名前:2/3 投稿日:2006/07/29(土) 16:13:09.29 ID:DRxFFVNB0
希望を見ているだろう・・・。だからこそ自分は解放される。不死である魔王という呪縛から。
  魔王も全ての力を解き放った。少年の闘気と混じり合い、場は竜巻の中のように乱れ、粉塵を巻き上げた。
 崩れかけた天井の瓦礫が落ちる。 それと同時に第二劇が始まった。
 虎が裂き、龍吼える様な舞闘会。二つの舞いは城を芸術的に破壊し、荒れ地を築く。空は薄暗い。だが、確実
に雲間から漏れる光は強くなっていた。夜明けの開幕から二度目の夜明けが訪れようとしている。
 舞闘はまだ終わらない。が、終幕の時間は遠くない。
「少年よ・・・神になってどうする?」 
 凄まじい剣圧が少年を襲う。その剣に乗せた、台詞の様な魔王の声が少年の耳に届いた。
 少年は一閃!魔王の剣に力強く応え、同時に叫ぶ。
「神は全てを持つことができる」
 その一撃は、両者に大きなダメージと、間合いを与えた。
 戦闘を開始してから二度目の口を開く。
「少年よ、教えよう。私は君に絶望と希望を与えられる」
 魔王は少年を真っ直ぐ見つめながらさらに続けた。
「希望は小さなものだが絶望ではない。・・・さあどうする?」
 しばしの沈黙後、少年が口を開く。
「・・・絶望とは?」
「私を殺しても君は神にはなれない・・・君がなることのできるのは・・・孤独な魔王だ。魔王の力は万能、確かに
その力は魔王を倒したものに乗り移る。しかしそれは・・・神ではない・・・神と違い魔王は愛を手にできない・・・」
「それが絶望・・・ならば希望とは?」
「希望とは私と共にいることだ。それは些細なことなのかも知れない。だが、孤独ではない。 」
 少年はその答えを聞くと、剣を下げゆくっり魔王に近づいた。あと一歩の距離で止まる。
 最初に見たときより幾ばくか年相応な瞳が魔王に向けられた。
「希望を選んだとしたら・・・お前といる俺はどうすればいい?」
 魔王の視線も和らいだ。
「わからぬ。とにかくそこに誰かいる、これが重要なのだ。後の事はまたかんがっ・ ・・!」
 いい終わらぬうちに魔王の持つ剣が少年の頭部を刺した。あっけなく剣は吸い込まれていく。

 


243 名前:3/3 投稿日:2006/07/29(土) 16:13:48.20 ID:DRxFFVNB0
(なっ!!!)
 魔王は目を見開き、胸中で驚愕の声を上げる。
魔王は、自らを脅かす攻撃の気配が近づくと無条件で反応し、排除しようと体が動く能力を持つ。手加減をして、
不意打ちで敵に殺される事がないよう備えられた能力・・・。
 つまり少年は近づいたときに、魔王を攻撃し、打ち滅ぼす意思があったのだ。
 そして少年は消えてしまった。
(違う!消えた!・・・・・・・・・・・・後ろっ!!)
 魔王がそう思った時には視界に映っていた景色は逆さになっていた。天に落ちていく感覚すらある。が、それは刹那に
消え、上半身のみで地面に転がっていることを理解する。見上げるとそこには少年の顔がある。
 痛みも無い、絶望も無い、悲しみも無い、残るは安堵する気持ちのみ・・・。
「・・・それが答えか?」
 魔王は平然とした態度で少年に問いかける?
「そうだ」
 少年も平然とした態度で答えた。
「これからはお前が魔王になる。もう後には引けないぞ?永遠かもしれない時間を孤独に生きることとなる・・・それはま
さに生の牢獄だ」
「今よりましだ。その力でなんでも手に入れて見せるさ・・・愛だろうがその例外ではない。こんな場所で引きこもって外
を見なかったお前とは違う」
 少年に迷いの色はなかった。
「そうか、力で愛を求めるか・・・ではその希望が絶望に変わらないことを祈りながら逝かせてもらおうか」
「ああ、せいぜい魂にでもなって俺の姿を眺めておきな」
 思えば、最初からどこまでもふてぶてしい少年とのやり取りも愉快であった。もちろん戦いも。
 魔王は力のない笑いと共に、最後であろう言葉を紡ぐ。
「ふふ、そうさせてもらうよ・・・ああ、やっと死ぬことができる・・・少年よ、感謝する、最後に・・・名を聞かせてくれ」
 少年の姿はもう見えない。すべてが消えてなくなりそうな黒の世界に届いた言葉はたった一言であった。

「サタン」
終了



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