【 戦闘シーン 】
ID:DzLkRGR70




236 名前:品評会用(再) 投稿日:2006/07/29(土) 16:10:19.83 ID:DzLkRGR70
誰がこのロクでもない戦いを始めたのか、一兵士の自分にはわからなかった。
圧倒的な火力が周りをなぎ払い、鉄の嵐が吹きすさぶ。幽鬼のように立ち尽く
した同期が、ハラワタをぶちまけて二つになった。

「お前は、後方に伝令を命じる、第ニ列は全滅、敵の戦車約三十両。」

歯の根が合わない俺の頭を、鉄帽の上から軽く殴りながら、伍長が耳元で
叫んだ。叫び声さえ遠のくほどの、鉄の嵐。

「ふ、復唱、第二列は全滅、敵の戦車約三十両。」
・・・全滅?だってまだ小隊の半分以上が戦っているのに???

「よし、三つ数えたら司令部目指して走れ。」

いつも厳しかった伍長が、優しい笑顔で笑うと、鉄帽を被りなおし、梱包爆薬
を肩から掛けると、塹壕から飛び出していった、小銃に着剣した古参の兵士、
抜刀した士官、一斉に壕から飛び出していった。

背後から響く戦車の地響きに追われるように、俺は必死で後方の塹壕目掛け
走った。鉄帽に当たる何かの破片、背後から聞こえる吶喊が小さくなる。

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/07/29(土) 16:10:50.28 ID:DzLkRGR70
肉と鉄との戦いだと、皮肉交じりに呟いた同期がいた。動員された哲学科の
奴だった。

ほんの数秒、いや数十秒、永遠とも感じる長い時間と、粘りつく空気の中、
俺は必死でわき目も振らず走り続けた。

ドーン、ドーン

遠雷のような爆発音が鳴り響き、気が付けば背後からの射撃が止まっていた。
大きな岩の陰に転がり込み、そこで初めて、もといた場所を振り返る。

肩で息をしながら、炎を、そして煙を噴き上げる戦車を見て、何が起こったか
悟った戦車の下に飛び込んでいった伍長たちのことを思った。

誰がこのロクでもない戦いを始めたのか、一兵士の自分にはわからなかった。
ただ、涙を流しながら、俺は司令部目指して走り続けた。

何も考えず、泣きながら走った。



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