【 図書館の最期 】
◆NODOKAiFx2




206 名前: ◆NODOKAiFx2 投稿日:2006/07/29(土) 14:38:22.88 ID:hXy8YXwi0
『図書館の最期』



 火炎瓶が放物線を描きながら落下する。
図書館の壁に叩きつけられるのと同時に、辺りに炎が四散する。
「一階司書室周辺部、外壁炎上!放棄して階段前ホールに後退する!」
白いドアを少し開ける。その隙間から、盗難防止用の磁気ゲート越しに見える正面入口を見る。
それに気付いた良化部隊が、一斉にドアの隙間目掛けて発砲を始める。
ピシッというモミの木の枝が跳ねる時のような音がし、淡いワインレッドのカーペットが煙を発しながら飛び散っていく。
「おい!まだ行くな!」
司書室から見て左側にある一般用貸し出し室を見ていた時だ。廊下のすぐ奥にある児童用コーナーから飛び出した兵士に叫ぶ。
兵士が戻ろうと、腰を後ろへ捻り始めた。それと同時に書棚の本が白い煙を上げ、木片が煙の中を舞う。
赤い煙が上がった刹那、ピンク色の肉がワインレッドの床に付着する。
前に倒れようとする力と銃弾の力がつり合い、顎から上の無い兵士がまるで踊っているかの様に揺らめく。
足の肉を銃弾が削り取っていき、真紅の液体が噴水の如く床を染めていく。
それによってバランスを崩した兵士が、児童書の鮮やかな色取りに倒れこみ、そしてズルズルと床に崩れた。
「うっ…」
吐きそうになるのを必死で堪える。あそこまで肉体がバラバラになるとは思わなかった。本では読んだ事があったが。
死体から目を逸らし、未だ続く銃弾の嵐を掻い潜る方法を探る。このままでは司書室の中にも延焼が及ぶ。外壁の耐熱タイルにも限界がある。
と、関東を代表する図書館である事が思わぬ脱出の可能性を提供する事に気付いた。
司書室から一つ左の部屋。そこは一時資料保管室で、重要歴史資料を運ぶ時に使う鋼鉄の小型コンテナがある。
床に密着する様にベルト式で、かつ自動で動く。そして中に入るにはもってこいの大きさだ。脱出に使えるかもしれない。
幸い、良化部隊が使っているのは弱装弾だ。厚い鋼鉄は貫通出来ない。
そう思いながら、隣の部屋に入る方法を考える。白いドアを盾にし、約2mの距離を跳び、素早くドアを開けて室内に跳び込む。それだ。
「おい、急げ!もう一階に残ってるのはお前だけだ!」
指揮官から無線が入る。二階でも、外からの激しい銃撃を受けているらしく銃声で声が聞き取りにくかった。
「了解!これよりコンテナを使用して脱出します!」
「分かった。合図と同時に正面玄関を狙う部隊に制圧射撃を加える。」
白いドアに手を掛け、勢いよく開ける。90度開いた所でストッパーを噛まし、完全に固定する。

207 名前: ◆NODOKAiFx2 投稿日:2006/07/29(土) 14:38:41.93 ID:hXy8YXwi0
ドアからは跳弾の音が聞こえ、そして所々が凹んできている。いくら弱装弾とは言え、何百発も撃ち込まれれば鉄製のドアも壊れるだろう。
「準備出来ました!」
通路の反対側、ホールの横の新刊案内のポスターが千切れていく。急がなければ突入されるだろう。
「今だ!」
上から、これまでに無い量の銃声が響き渡る。それと同時に銃撃が止み、正面玄関には赤と白の煙しか残っていない。
その煙を掻き分け、ドアまで走る。MP7が引っ掛からないようにストックの部分を持ち、ドアノブに手を掛ける。
それと同時に、児童書コーナーの一番奥にある窓が割れ、灰色のBDUに身を包んだ良化特殊部隊が飛び込んできた。
計画変更。MP7のストックを右肩に当て、ホールに向かって走りながら腕を絞る。
「そのまま向かう!」
特殊部隊の一人がほぼ同時にAKを構えた。それに照準を合わせ、引き金を引く。
三点バーストの一発目は胸の中心に飛び込み、二発目は首のすぐ下に飛び込む。一発目が体を抜けるのと同時に三発目が頭に飛び込んだ。
一直線に、赤い線を描きながら気管支が飛び散る。同時に鼻が粉砕し、右目も潰れるのが見えた。
その左側、料理・手芸本コーナーの新刊ラックを盾にしたもう一人が発砲を開始する。
銃を両手で持ち、頭からホールの柱に飛び込む。
磁気ゲート、壁の順に銃弾が命中し、それは丁度頭の高さだった。危ない所だ。
二階の銃撃が止み、再び正面玄関の部隊が射撃を開始する。
幸い、もう一つの柱により今隠れている所は死角になっている。しかし、いつ突入されるか分からない。

208 名前: ◆NODOKAiFx2 投稿日:2006/07/29(土) 14:39:01.58 ID:hXy8YXwi0
「もっと援護してくれ!反対側から特殊部隊が突入した!」
もっとも、今現在正面玄関から発砲している以上、直に柱まで回りこむ事は出来ないだろう。
安心しながらMP7を持ち直した時、柱の端が粉々になった。
身を縮め、制圧射撃を待つ。すると今度は合図無しで始まった様だ。
素早くホールを走り抜け、階段に飛び付く。踊り場には既に図書部隊が待機しており、屋上まで引きずり込まれた私は幸運にも助かる事が出来た。
残念ながら図書館は『事故』により全焼、図書が押収される事はなかった。
その後分かった事だが、翌日に行われる筈だった市のセレモニーに合わせ、鋼鉄製のコンテナは一つも残っていなかった。
業務外の指揮官はそれを知る由も無く、実際市のセレモニーでコンテナが使われるのは初めてだった。
あのままドアに入っていたらどうなっていたか、今でも考える度にうすら寒くなる。

おわり



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