【 犯罪 】
◆ct0G69Z3/Y




423 名前: ◆ct0G69Z3/Y 投稿日:2006/07/23(日) 19:28:49.20 ID:E9qVd5gx0
今だからこそ素直になれる。ここまでやる必要は無かったんだ。

後悔は先にたたないというが、まさにその通りだと実感していた。僕の家はアンモニアとチーズが腐った臭いで塞がている。
もう数日間、ずっとこのままだ。
この公務員宿舎のようなボロい賃貸アパートは僕が生まれた場所で、育ったところでもある。
この家がこんな臭いで満たされるなんて、つい数日前までは想像もできなかった。


はっきり言えば、むかついたから。
父親は寝込みを襲った。寝ている所をガムテープでぐるぐると縛りつけ、バットを振り下ろした。
バットは小さい頃父親に買ってもらったものだ。
人は案外もろいもので、ハゲかかった頭蓋に小気味良い音と共に最初の一撃を振り下ろすと、鮮血を噴出しながらその脂ぎった中年はぐったりとしてしまった。
念のため二撃、三撃目を食らわしてやったが。何も反応しない。
作業し終えた後、歯の根が合わなくなった。震えが止まらなくなる。
しかし、不思議と恐怖感はなくただ好奇心が昇華されていくのが分かった。
焦燥感に似ているな。自分の手で人の人生が変わるという事実がとてもうれしかった。


母親は、父親が寝ている間に毒を盛った。
毒なんて、ネットで調べればいくらでも作り方が書いてある。薬局でも買える。許可証なんていらなかった。
塾帰りの俺と2人きりで食卓を囲んでいる間に、母親が目を離した瞬間、器の中に毒を盛った。
俺の目の前で助けを求めもだえる姿は今でも眼裏に焼きついて離れようとしない。
パクパクする口が、必死に何かを訴えかけているようだった。


まさに完全犯罪だと、自分で自分を賞賛した。
目撃者は皆無だし、会社員の父親は明日から夏休みだと聞いているので、早々にバレないだろう。
母親は外との連絡をあまりしない人だったし、それも計算の内だった。
さらに僕は一人っ子だし、まだ少年法に守られる年齢だ。捕まっても、数年すれば塀の外に出てくることができる。


424 名前: ◆ct0G69Z3/Y 投稿日:2006/07/23(日) 19:29:12.45 ID:E9qVd5gx0

さてこれからどうしよう。
3日間風呂に入っていないフケだらけの頭を掻き毟りながら、パソコンの電源を入れる。
試しに死体の処理方法をネットで聞いてみるが、どれもパッとしなかった。
硫酸につけるとか、ミキサーにかけてトイレに流すとか。どれも非現実的だろう。
こういうときは焦っちゃいけない。
好きなアーティストの音楽を聴きながら、目を閉じてみる。この世界だけが隔絶されているような錯覚を手に入れて、少しうれしくなる。

ふと、頭の中に青白い電流が走る。
「――そうだ、燃やしてしまえばいい」
燃やしてしまえばいいんだ。そうすれば言い逃れできる気がする。死体も家も証拠も何もかも燃やせばいいんだ。
さっそく、放火について調べてみる。どうやら火種となるガソリンや灯油が必要なようだった。

何かしらの免許を持っていないし、原付や車を買える年頃でもなかった。
そんな小僧にガソリンなんて売ってくれるわけがない。
仕方なく、ジッポのオイルで実行することにした。
コンビニで万引きしてきたジッポオイルを新聞紙に染み込ませて、室内に置く。
そこからオイルを家の外までつながるように撒き、団地から少し離れた公園までオイルの線を引いた。そこで火をつけることにしよう。


425 名前: ◆ct0G69Z3/Y 投稿日:2006/07/23(日) 19:29:39.00 ID:E9qVd5gx0
オイルの上に火をつければボーっと火が線になり、放火できると思っていた。ドラマとかでは、そうやって火をつける場面があるだろう。
ネットの人たちもそうやれば簡単に火をつけることができると言っていたんだ。

でも、それは間違いだった。オイルは地面に染み込み、火はつかなかった。
逆に、自宅から公園まで奇妙な線ができてしまい、このままでは本当にまずい事態になることが予想される。

馬鹿な自分に腹が立ち、空のオイル缶を地面に叩きつけ、自分の頭を拳骨で何回も叩く。意味の無い行動だとは自分でも分かっていた。

家に戻り。失意のまま椅子に座る。
部屋の中は腐臭と鼻につくオイルの臭いが混ざっていて、普通の人ならすぐに吐き気をもよおすほどの悪臭となっていた。
またもや頭を掻き毟る。今度は両手でワシワシと。大きな溜息も、虚しい。

そんな中、ふとある異変に気がつく。
黒くて脂っこい害虫が、母親の足元をかじっている。それだけではない。
寝室の父親の骸には想像以上のゴキブリが集っていた。かじられた部分から白いものが見えている。
ゴキブリが異常に増えている。

このままではまずい。早くこの動かなくなった肉塊を始末しないと。
ついさっき外から戻ってきてわかったのだが、この家の中の腐臭が外に漏れている。
このまま放置していれば、そのうち誰かが警察に通報するだろうことは必至だった。
急かす気持ちが加速度を増して脳内で渦巻いていた。好奇心は昇華されて恐怖心に変わってしまったのかもしれない。

少し落ち着こうと思い、ブラウン管のスイッチをいれる。
ぼんやりと立ち上がる画面をぼうっと見ていたが、現れたのは砂嵐だった。
ざーっと騒音を立てながら流れる5chを見ているうちに、また頭の中にあの音楽が流れ始めた。


僕を後押ししてくれたあの曲。僕を犯罪者にした、あの曲が。

題名:「朔-saku-」



BACK−救いなし ◆3WmQZKDzxM  |  INDEXへ  |  NEXT−アメだまと僕と小さな嘘と ◆2LnoVeLzqY