【 私だけの潮騒 】
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965 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/17(月) 00:01:19.73 ID:7ZC5AO4q0
今日もえらい一日だった。
心底疲れた。
何もかもがどうでもいいっくらい、疲れた。
頭の中はなんだか真っ白なままで、似たような言葉ばかりがからからと空虚な音を立てて回っている。
「疲れた」
「暑い」
「足重い」
「つか身体重い」
「寝たいのに眠くない」
「シャワー浴びたい」
「でも動きたくない」
「疲れた」
そんな言葉が私のまわりを踊っている。
これはかわいい子犬たちのワルツか、それとも走馬灯か。

966 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/17(月) 00:04:09.93 ID:7ZC5AO4q0
ベッドにへたりこんでじっと天井を見つめると、すぐそばを走る高速道の音が聞こえてくる。
ごぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉんんん――。
ごおおおおぉおぉおんんん――。
ここに生まれ育った私にとってその音は、たとえば漁師にとっての潮騒のようなものだ。
遠く近く。
大きく小さく。
それは色彩に乏しいわりにバリエーションに富んでいる。
慣れない人間にとってはただの騒音だろうが、私はそれを聞いているだけでいくらでも暇がつぶせる。
こんなふうに何もしたくないのに眠れない夜なんかは特に。
ごぉぉおおおぉぉぉんんん――。
その音は私が寝ている間も誰かが起きている証明。
ごぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉんんん――。
私がこうしている間も誰かが世界を回している証明なのだ。
海が歌い続けるのと同じように確かな証明。

私は今日もいつ寝たか覚えていないに違いないだろう。
今夜もこの音に守られて、眠る。
例えば、硬く閉ざした貝みたいにね。
私はやっとやってきた眠気を捕まえるために、両ひざを抱きしめた。



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