788 名前:(1/2) :2006/07/16(日) 11:33:29.43 ID:8Ijkms9G0
最初は音でしかなった。
何か変な音がするなとは思っていたんだ。けど、それは特に気になることはなかった。だって、
聞こえているのかどうかも自分では判断できない、いわゆる空耳のようなものでしかなったのだ
から。だから、この音に関する記憶はあまり残っていない。
けど、次の現象はよく覚えている。
声だ。次は声が聞こえだしたんだ。しかもどこか遠くから聞こえてくるとかそういうのではない。
頭の中に直接響くように変な声が聞こえるようになったんだ。
これは流石に空耳では済ませられない。俺は恐くなって何度かお寺に行ってお祓いをしてもら
った。
それでも声は消えることはなかった。
俺は恐ろしかった。何か起こるんじゃないか? 命に関わるような恐ろしいことが起こるんじゃ
ないか?
そう思いながら不安に身を震わせながら毎日を過ごしていた。
そしてついにそれは起こってしまった。
俺の右手が勝手に動き出したんだ。最初は震えるように、次第に動きは大きくなり、今では勝
手に腕を振り回してしまうまでになってしまった。
何とか自由な左手で必死に押さえるが、右手の力は異常に強力で、全力を出して押さえつけ
ないと駄目なほどだった。
右手が勝手に動き出すのはだいたい二日に一度。十分ほどだ。
もう恐怖で頭がどうにかなってしまいそうだった。
友達は誰も信じてくれなかった。お祓いは何度しても意味がなかった。
誰も味方がいない。
孤独と言う名の恐怖。
正直、もう限界だったのかもしれない。
事件は会社へと向かう途中の電車の車内で起こった。
789 名前:(2/2) :2006/07/16(日) 11:33:55.40 ID:8Ijkms9G0
「……で?」
は? 「で?」だと?
こいつは今まで何を聞いていたんだ? 馬鹿か?
俺が今怒りの矛先を向けているのは一人の警官だ。
俺が、これまでの経緯を事細かに説明したというのに、話を聞いていたはずの警官は
ただ一言、「で?」とか言いやがった。
ふざけるな。俺がどれだけ恐かったか。どれだけ苦しかったか。
しかし、警官はそんな俺の気持ちなんか全く無視して俺の肩を強引に掴んだ。
「まぁ、とりあえず痴漢の現行犯で逮捕だからな。話の続きは署で聞こう」
「ま、待ってくれ! 違うんだ! 俺じゃない! この右手が勝手にやったんだ! 俺じゃ
ない! 違うんだ! 放してくれ!!」
俺の悲痛な叫びはホームにこだまし、やってきた電車の轟音でかき消えた。