【 奇跡の風鈴 】
◆ngnLjmLKAE




699 名前:1/4 ◆ngnLjmLKAE :2006/07/16(日) 01:42:51.20 ID:O0M6KaFD0
お題「音」   タイトル「奇跡の風鈴」

俺はもう、この風鈴の旋律を何万回と耳にしている。
何故なら彼女の家はこの辺りでは珍しい、「手作り風鈴屋」として有名だからだ。その店の隣に、俺の家がある。
毎年この時期になると、店の外に風鈴が出される。普段は屋内で商品を並べているだけだ。
高校受験生である俺は部屋で静かに勉強することが多く、今年は例年よりもさらに風鈴の音を聞いてる。
「涼しい・・・」
クーラーの無い俺の部屋でも、風鈴の音色は「涼」を運んでくれる。
しかし、それはまもなく携帯の着信音でかき消された。友達からだった。
「おい光平!!(こうへい)今どこだよ」
「なんだ、春一(しゅんいち)か。今は自宅で勉強してるよ」
「だったら海いこうぜ海!!どうせ暇だろ?」
(今勉強してるって言っただろ・・・)
しかし、今は真昼の1時。気温も体感では34度はあるだろう。不快指数が高い。
「どうしようかな・・・」
「お前だって泳ぎたいだろ?それにここだけの話、理奈(りな)が来てるんだぞ」
「えっ!?それ本当か?」
理奈(りな)・・・俺の幼馴染であり、初恋の人だ。
彼女は高校受験で来年、この町を出て行く。だから、彼女に想いを告げるのは今年しかない。
「お前好きなんだろ?こりゃぁチャンスだ。まぁ、俺はいつもの海岸で待ってるから早く来いよ」
プーッ、プーッ・・・春一はそう言い残して、電話をきった。
(勉強は夜にまわせばいいとして。理奈か・・・よし・・・!!)
俺はすぐにズボンの下に海パンを履き、玄関を勢い良く開けて、チャリで海岸へと出発した。
(告白までいかなくてもいい。せめて、きっかけぐらいできれば・・・・・!)
俺は淡い期待と汗を胸に、理奈がいる海を全速力で目指すのだった。

700 名前:2/4 ◆ngnLjmLKAE :2006/07/16(日) 01:43:41.15 ID:O0M6KaFD0
「おっせーぞ光平」
やっと海へ到着した。すでに汗まみれだ。出来るなら今すぐ海に飛び込みたい。
「悪い。途中でアイス買って食べてたんだ」
「それよりも―――ほれ、あそこ見てみ♪」
「あ・・・」
ショートヘアー、身長150ほど、童顔・・・間違いない。理奈だ。隣にいるのは多分、理奈と仲の良い明菜(あきな)さんだろう。
しかし、海岸にいると言うのに彼女達は普通の私服だ。
「水着じゃなくてガッカリ?今日は泳ぐ気ないんだとよ」
「そうか・・・じゃあ俺達だけで泳ぐか」
「おうよ!何故か海水客は一人も居ないし、今日はこの海俺達で占領だなw」
俺はすぐに汗まみれの臭い服を脱ぎ捨て、彼女を横目に海へと向かった。

「理奈、あれ光平君じゃない?」
「あ、ほんとだー。珍しいね、いつもならこの時間勉強してるのに」
「これだけ暑かったら泳ぎたくもなるよ」
「だよね―――あっ!まただ!!」
「何?またお手製携帯ストラップ「プチ風鈴」落としたわけ?まったく・・・何で携帯に風鈴なんだか」
「お父さんが「店の宣伝になるから付けとけ!!」ってウルサイんだもん。もう、何処いったんだろう・・・」

理奈が風鈴探しをしているのもつゆ知れず、俺は誰もいない海を満喫していた。
相変わらず気持ちいい。勉強の疲れを癒してくれる。しかし。今日は何故か海底が暗い。
泳ぎ始めはまだ海底まで突き刺すような陽光があったのに、今はもう真っ暗だ。
(日差しがない・・・ってことは今日は雨でも降るのか?・・・天気見てみるか)
俺はすぐに海面に顔を出した。すると、だ。何故今まで気付かなかったのだろう。
雨はおろか、雷が落ちる音がする。かなり酷く天候が荒れていた。
辺りを見回すと、春一はもう海外にいた。俺は急いで海岸まで泳いだ。

701 名前:3/4 ◆ngnLjmLKAE :2006/07/16(日) 01:45:07.74 ID:O0M6KaFD0
「はぁ、はぁ・・・くそっ、なんだよこの天気は」
「た、大変だ!!理奈が・・・理奈が・・・!!」
いつも穏やかな春一が取り乱している。
「どうした!!理奈に何かあったのか!?」
「それが・・・携帯のストラップ探してる内に・・・波に飲み込まれたって・・・」
「なっ!?嘘だろ!?」
「ほ、本当だ!!明菜がそう言ってる・・・海岸沿いでストラップ探してて・・・そしたら急に大波がきて・・・」
(くそっ!!こんな大雨の中でコイツがこんな冗談言うはずがない。理奈・・・・!!)
向こうから一人、女がこちらに駆け寄ってくる。明菜さんだ。
「はぁはぁ・・・光平君!?」
「明菜さん!理奈が波の呑まれたって本当か!?」
「ど、どうしよう・・・そ、そうだ。助け、助けを呼ばないと・・・」
「そんなの待ってられるか!!―――理奈は俺が助ける!!」
「お、おい。何言ってるんだよ。こんな荒れ模様の海に入ったら、いくらお前でも・・・」
春一が俺を止めている。訴えるような言葉を俺にぶつけている。
しかし俺はそれを振り切り、気付けばまた海へと飛び込んでいた。そこには無限の闇が広がっていた。
(ちくしょう・・・何も見えない・・・)
俺はすぐに息が苦しくなり、海面へと顔を出した。しかし波の勢いが強いせいか、俺は息をする間もなく波に呑まれた。
それを繰り返しているうちに、俺は意識が遠ざかるのを体で感じた・・・・・もはや俺は、息をしていない。
(はは・・・何やってるんだ・・・俺・・・好きな人・・・・一人・・も・・・護れ・・ない・・・な・・んて・・・)
体の端から力が抜けていき、やがてまぶたも重くなる。俺は死を覚悟した。

702 名前:4/4 ◆ngnLjmLKAE :2006/07/16(日) 01:45:30.78 ID:O0M6KaFD0
―――チリーン・・・チリーン・・・―――

そんなまさか。海の中で音が響くはずがない。ましてそれが「風鈴」と特定できるはずがない。
しかし、俺は確かに闇の中で聴いた。聴こえたんだ。奇跡の音を・・・あの「風鈴」の音を・・・!!
俺はまた海面に顔を出した。刹那、息を大きく吸い込み、再度暗黒の海へ潜った。
深い深い闇の中に、一筋の光ともいえる「音」が聴こえる・・・!!
―――チリーン・・・チリーン・・・―――
(まただ。また聴こえるぞ!!・・・こっちのほうからだ!!)
俺は無我夢中だった。そして・・・奇跡が、起きた・・・


――――――気付けば俺は、海岸に打ち上げられていた。頭の中が真っ白だ。何も考えられない。
しかし、一つだけ確かなことがある・・・生きている。そして、肌に温かみを感じる。
・・・理奈だ。俺は確かに、理奈を両手でギュッっと抱きしめていた。
理奈もまた、息をしている。理奈の左手には、あの小さな「風鈴」が確かにあった。
俺達は、助かったんだ・・・・・!!


その後、地元の人たちが俺達を発見してくれた。
春一と明菜さんのおかげでもある。彼等がすぐに助けを呼んでくれなければ、俺達は衰弱死していたそうだ。
あの夏、あの時の奇跡を、俺は一生忘れないだろう。

俺達を導いた「奇跡の風鈴」は、今は俺の左手の中で、あの時と同じ旋律を、今も、奏でている。



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