【 2人 】
◆4Dz19Yo7yc




694 : ◆4Dz19Yo7yc :2006/07/09(日) 23:45:27.41 ID:6cTsmEVxO
 春、雨止まず。
 桜は満開、空は晴天。しかし豪雨は続くよどこまでも。
 遂に傘のない僕と彼女は手に手を取って走り出す。目指すは桜の木の下。
 豊かに花びらを湛えた桜。図らずとも雨から僕らを守る。
「はぁっ、はぁ」
彼女はすっかり息を切らしている。頬を紅潮させ、喘ぐ彼女を見て僕も赤くなる。
「大丈夫?」
声を掛けると彼女は頷いた。


695 : ◆4Dz19Yo7yc :2006/07/09(日) 23:46:43.52 ID:6cTsmEVxO
 桜と雨の取り合わせはなかなか風情があるが、会話を続かせるのが苦手な僕、いや僕らに試練を与える。
 桜の木の下、2人きり。豪雨の中、人も通らず雨の音だけ響いていると、世界中の人達は僕らを残して火星に移住したのかとすら思う。豪雨さん、違いますよね?
「桜、綺麗だね」
彼女が沈黙を破る。豪雨と話をしていた僕はコンマ数秒反応が遅れた。
「あ、うん」
会話を打ち切る切り返し。まるでコミュニケーション不全。僕の頭は高速で回転し、気の利いたフォローを実行してくれる。


696 : ◆4Dz19Yo7yc :2006/07/09(日) 23:52:02.42 ID:6cTsmEVxO
「でも君の方が綺麗さ、ハニー」
ぴたり、彼女は微動だにせず僕を見る。そして、
「あははははははっ!!」
堰を切ったかのように笑い出す。腹を抱え。
「あ、あは、あはははははは!!」
僕もつられて笑った。2人の笑いが響き、世界中の人が火星に移住していたとしても、悲しくない心持ちだ。
やがて、雨は止む。僕は彼女と僕以外の人を見て世界中の人が火星に移住していないことを確認し、1人で笑った。彼女は怪訝そうに僕の顔をみて、何で笑っているの怪しい、ふふっと笑った。
 帰り道の話題は、火星に人はいつ移住できるか、にしよう。



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