【 二人の行方 】
◆Qvzaeu.IrQ




444 : ◆Qvzaeu.IrQ :2006/07/09(日) 13:59:33.23 ID:ZKIos77q0
品評会の作品できたので、投下しますね〜。

お題 『雨宿り』タイトル「二人の行方」


445 : ◆Qvzaeu.IrQ :2006/07/09(日) 13:59:53.75 ID:ZKIos77q0
 二人でいたって、私にはもう昔のように微笑むことなんか出来なかった。
 どんなときだって、凄く近くに居るのにね。今だって、手を伸ばせば触れられるほど近い場所にこうくんはいる。
 雨降る中、私たちは学校の軒下で雨宿りをしていた。冷たい風が吹く。重い空が見える。雪になり損ねた雨が、やむ事無く振り続けていた。
 こうくんは、私の横で雨空を眺めている。私は、そんなこうくんの顔を眺めている。凄く近くに居るんだけどなあ。
 小さい頃のこうくんは、私とたいして背が変わらなかったのになあ。気が付いたら、見上げなきゃ顔が見えない。
 気付けば、私はいつもこうくんと一緒に居た。それが当たり前のなくしたくないものだったから。凄く心地が良かったのにな。
 こうくんに、彼女ができた。それはそれは、小動物みたいに可愛い子。少し落ち着きがない、年下の子。
 私の大好きなこうくんは、今じゃ誰かの愛するこうくんだ。
「雨、やまないな」
「うん」
「なんか悩みでもあるん?」
「まーね、それなりに」
「そっか」
「うん」
 こうくんは、とびっきりの優しさがある。うん、これは私が断言する。保育園前からの付き合いだから。
「まあ、何かあればいつものように、俺が話を聞くよ」
「ありがと、でも今回ばかりは良いかな〜」
「うん、そっか」
 全く、本当に優しい人なのだ。あー、あ。なーんで、こー優しいのだか?
「こーくんさあ、アレ。こういう話知っている? 私の幸せか、愛する誰かの幸せか?」
「そういうのは、お酒を飲んだときに言えって」
「まあ、1つの話題だよ♪ 彼女持ちの少年に一言聞いておきたくってね」
「んんん? 女の子はいつも難しいことを聞くよな。この前も、聞かれたよ」
「誰に? なんて?」
「ゆうに、私と友達どっちが大事なの? ってさ」
「ふーん、で、どう答えたの?」
「いや、両方大事って。そんなの選べるわけないだろ」
「そっか、それじゃあ私の質問の答えは?」


446 : ◆Qvzaeu.IrQ :2006/07/09(日) 14:00:49.31 ID:ZKIos77q0
「これか……、そりゃあ愛する人の幸せだろ?」
 こうくんは、少しも考えるそぶりを見せずに言ってのけた。あっちゃ、カッコいいわ。
「でもさ、例えばだよ? 愛する人が幸せになると、自分が不幸になる。そう言う状況でも?」
「また難しいことを言う……」
「自分が幸せになるから、誰かを幸せに出来る。そういうコトも言うよ?」
「んーーっ、女の子のいうコトは難しすぎるって。そんなん、アレだ。ほら、アレ」
「あはははっ。しょうがない、今日のところは勘弁してやろぉ〜」
「そうしてくれって。まあ、感覚みたいなもんだ。な? ほら、それに近いもの。理屈じゃない奴」
「うん」
「さてっと、雨が弱まってきたな。今行けば、ずぶ濡れにはならなさそうだ」
 こうくんに言われて、雨を注意深く見る。確かに、雨脚は弱まっていた。
 けど、なんかここで家に帰るのは嫌だった。
「でも、もう少し待った方が良いんじゃない?」
「んー、じゃあもう少し待とうか」
「そうそう、焦らずにじっくりとだよ♪」
「おう、ところでさ。春菜、大学の進路とか決まったか?」
「私はね、一応。って言っても、そこら辺の文系でいっかなあ程度だけどね」
 なんか、ね。今別れちゃうと、どこかでもう会えない気がするんだ。
「適当だな〜」
「そういう、こうくんは?」
「国立がいけたら良い程度」
「うわ、そっちも同じくらい適当」
 こういう話もすると思う。彼女が出来たくらいで、私たちの関係が崩れることはないから。
「だってさあ、行き成り大学を決めろとか言われてもなあ。無理だよな」
「だよねー」
 でも、なんか遠くに行っちゃった気がしたんだ。
「おう」
「ところで、子供の頃を思い出さない?」
「思い出すなあ。アレだろ? 二人でお使いに行ったときのこと」


447 : ◆Qvzaeu.IrQ :2006/07/09(日) 14:01:52.45 ID:ZKIos77q0
「そうそう! 懐かしい。こうやって、雨宿りしたよね」
 もう、微妙に違うズレを感じていくのかもしれない。今別れたら。
「あの時は、夏だったからさ。蒸し暑かったよな」
「うん、凄い暑かった。こう君が、お金も落として大変だったよね」
 もう少し、雨が降らないかなあ。そうすれば、まだ、何かを繋ぎとめられそうな予感がするんだ。
「あれは仕方ない。子供だし」
「ガチャガチャしたくて、1000円崩したのが悪いんじゃない?」
 気だけかもしれない。それでも、二人こうして並んでいられる最後なんだって、解るんだ。
「それも含めて、仕方ない。だってさー、しょうがないだろ? もう売ってないカードがあったんだし」
「まあ、そのカードのせいでねー。折角仕舞っていた、お財布を落としたと。お陰で、お母さんたちには怒られたよね。『何で、しっかり仕舞っていたお財布だしちゃったの! 貴方たちは、すぐに落し物をするから、お店まで出しちゃ駄目って言っていたのに』ってさ」
「事実だけを言えばな〜。懐かしい」
「懐かしい」
 雨よ、もう少しだけ降ってくれませんか? 
 ここで別れたら、私は大切な何かを失いそうなのです。
 繋ぎとめておきたいのです。その為の猶予を下さい。この雨の中で、何とかしますから。
 私、ずっと君のこと好きだったんだよ? 誰よりも、誰よりも。



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