【 雨宿り 】
ID:heJQ22ra0




418 :雨宿り :2006/07/09(日) 09:40:58.85 ID:heJQ22ra0
地面を叩きつける激しい音。その音を、学校の玄関先で少女は聞いていた。
「雨宿りかい」
若い男が、少女に話しかける。少女は答えない。
暗い少女の表情に何かを悟ったのか、男はふっとため息をつく。
「傘はどうしたの?朝から降ってたよね、雨」
「…」
少女は答えなかったが、うつむく姿がそれを肯定していた。
「傘、取られたのかい?」
はっとしたように顔を上げ、少女は男を見つめる。
男は表情を緩め、優しく少女の肩を抱きながら話しかける。
「いやなことは、ちゃんといやって言わないとダメだよ。
 それでもまだ止めないなら、僕が相談に乗ってあげるから」
「…うん!」
どしゃぶりの天気のように沈んだ少女の顔に、雨上がりの虹のような明るさが戻る。
「今日は僕が家まで送るからさ。ほら、あそこに白い車が見えるだろ。
 あれが僕の車だから、あそこまで走っていくよ。いいかい?」
「うん、いいよ!」
本当に子供のようにはしゃぐ男と、本当に子供らしくはしゃぐ少女の笑い声が
非情で容赦のない、冷たい雨の中を駆けていった。

革のシートがどこか温かな雰囲気さえ感じさせる車内で、少女と男は
笑いながらタオルで顔を拭いていた。
ふと、少女は手を止め、不思議そうに男の顔をじっと見る。
「おじさん、だれ?」
男は答えず、ただ優しく少女の濡れた髪を撫で
そして二人を乗せた車は、暗い雨の中へと走り去っていった。
おわり



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