【 黒い雲 】
◆aY6eiqeyuY




326 : ◆aY6eiqeyuY :2006/07/08(土) 21:35:07.66 ID:3QNn175O0
お題:雨宿り 「黒い雲」

雨は、突然降ってきた。
昼飯を食い、さて今から大高に向かおうというのに、ついてない。
義元は、舌打ちしながら腰を下ろした。
幕舎にたたきつける雨は、次第に強くなってく。
その音に、一抹の不安がよぎる。
「雨宿りだ、酒を持て。」
手近の者にそう告げると、まもなく、小さなひょうたんがやってきた。
杯に注がれた酒を、乱暴に飲み込む。
飲んだら多少はマシかと思ったが、やはり不安は消えなかった。
これまでに、いくつもの城を落としてきた。
これからも、落とすだろう。
東海一と謳われた自分に限って、不安などあるはずがない。
そう言い聞かせてみるが、無言のつぶやきは、雨の音に全てかき消されてしまう。
織田の若造は麓の中島に陣取っているそうだ。
「小童が。雨が止んだら蹴散らしてくれる。」
もう一度、杯に口をつける。
――そういえば、斥候はどうした?
雷の音が混じりだした。
気になって外に出てみると、辺りは真っ暗だった。
時折落ちる雷が、ことさらに不安を募らせる。
馬廻りは幕舎に引っ込んでいた。
――俺が信長なら……
義元の不安をあざ笑うかのように、雨足が去っていく。
雨の音の代わりに、西から怒声が聞こえてきた。

―完―



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