【 既視感 】
◆4lTwCuEYQQ




#navi(BNSK/週末品評会/14th)

193 :既視感 ◆4lTwCuEYQQ :2006/07/03(月) 23:43:14.21 ID:gESWWXZE0
「ねえ、この世界ってつまらなくない?」
と、私こと葵は唐突に切り出す。
明日で付き合って二年になる健吾は、それを聞いて訝しげな顔をした後、少し笑いながら言葉を返してきた。
「どうして? 俺というものが居ながら」
私は割と本気の口調で言う。
「だって、学校とか、人間関係とか、政治とか、家事とか、ご飯とかするの面倒臭くない?」
ツッコミ体質の健吾は私の喋っている途中から手が震えだす。
「殆ど全部じゃねーか」
おでこに「なんでやねん」されました。痛いです。
「だから最初の、ねえ、この世界ってつまらなくない?、に繋がる訳で」
健吾はギャグ漫画でよく有りそうな、白目を出す変な顔で頷いて言う。
「そうかいそうかい、なら新しい世界でも探してみればいいじゃないか」
それを聞いて、私はなんて馬鹿だったんだろうと思った。
「ありがとう」と健吾に言い、
立ち上がり、
出口に向かって猛ダッシュ、
後ろから、
「おい!葵!」
なんて健吾の声が聞こえても気にせず、
家まで飛んで帰った。


196 :既視感 ◆4lTwCuEYQQ :2006/07/03(月) 23:43:34.67 ID:gESWWXZE0
「ただいま〜」
家に着く。
自分の部屋に行く。
今の時代は便利になったよね〜、と思いつつパソコンを起動させる。
起動が終わったので、インターネットブラウジングソフトを開く。
お気に入りの検索サイトで……、
新しい世界、とはつまり新世界。
「新世界」で検索にかけてみる。
……何これ。
「僕は新世界の神になる」とかふざけてるのに人気な漫画がトップに来やがりましたよ、ええ。
きっと新世界じゃ出てこないと思った私は。
裏をかき、「旧世界」で検索をかけてみた。
トップに「この世界に飽きた貴方へ」なんていうサイトが出てきた。
気になり見てみると、「この世界に飽き飽きしてきている貴方、/いらっしゃい」とポップアップと声が出た。
驚いて消すと、また出てきた。意地になり×ボタンを連打すると。
「この世界に飽き飽きしてきている貴方、黄泉の/いらっしゃい」まで出てきた。
もう×ボタンは押していないのに消えたり出たりする。
何回目だろう。「この世界に飽き飽きしてきている貴方、黄泉の国へいらっしゃい」と出た所で、パソコンが強制終了した。
何分経ったかは分からないが、ボーっとしていたのはきっと五分ぐらいだろう。

目が覚めた。いつの間にか寝てたようだ。
今は午後10時近くらしい。何故かは分からないが健吾に電話がしたくなった。
プルルルル、プルルルル、ガチャ。
「もしもし、健吾?」
「ああ、どうした? 声変だぞ?」
「え? そう? あ、そうそう、分かったの新しい世界について、だから今から中央公園東側のベンチに来て?」
「まあ、何かは分からないが行こうかね」
「うん、じゃあよろしく」
プツン。


197 :既視感 ◆4lTwCuEYQQ :2006/07/03(月) 23:43:55.48 ID:gESWWXZE0
用意をして、家を出る。
自転車に乗って、公園に向かう。
電灯の下に健吾が見えた。
「ごめんね、遅れた」
とりあえず謝る。
「気にするな。三分程度だ。で、分かったんだろう?」
健吾は興味津々なテンションで聞いてくる。
「ふっふー、まだ秘密。とりあえず寒いからお茶どうぞ」
「ちぇー。ありがとう」
健吾は残念そうに言いながらも、幸せそうにお茶を飲む。
「起きたら連れて行ってあげるから、とりあえず今は何も聞かず、彼女さんの膝枕で寝なさい」
膝をぽんぽんと叩いて、笑いながら言う。
「そうか〜。じゃあ、お休み」
「うん、お休み」

数分後、お茶に入れた睡眠薬が効いたのか、爆睡中の健吾。
その心臓に、ナイフを思いっきり突き刺す。
ううっ、と少し呻いたけれど即死だった。
次は、私。
最期くらいは格好いい事言いたくて、だけど思いつかず。
「健吾、愛してる」
みたいな陳腐な事しか言えず。そして、この世界とのさよなら。


198 :既視感 ◆4lTwCuEYQQ :2006/07/03(月) 23:44:15.60 ID:gESWWXZE0
目を開く。
健吾は傍に居るけど、まだ目を覚ましていないみたい。
周りを見渡してみると、無限に広がりそうな荒野で。
きっと新世界なのに、何度か来たことのある気がする。
健吾が少し呻いた。顔を覗き込む。
目を開いた。意識があるようなので、とりあえず笑顔で。
「ようこそ」って言ってみた。
健吾はきょろきょろと首を回して、不思議な顔をする。
私はそんなのを気にせず。一番言いたかったことを言う。
「ここで、ずうっと一緒にいようね」
「ご飯とかは大丈夫なん?」
健吾は時々あほな質問をする。
「大丈夫に決まってんじゃん。なんてったって、新世界だもの」
健吾が「この世界は果てがあるのかな?」なんて言うので、手を繋いでゆっくりと今、歩いている。

健吾がでかい声で言う。
「思い出した」
私はビックリして口が回らなくなった。
「にゃ、にゃにを?」
健吾は懐かしみながら、そして笑いながらゆっくりと口を開く。
「ここは、あの世、だな。何度か来た覚えがある。この人生じゃ輪廻転生説なんて信じてなかったのにな」
「本当だよね〜」
「てか、あ〜お〜い〜。俺を殺したのか〜」
「ごめ〜ん」
「許さ〜ん」
そんな風に漫才しながら、楽しんであの世生活おくってます。だからお母さん、お父さん心配しないでね? fin



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