【 新世界 】
ID:Giu86bBl0




395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/04(火) 16:06:08.97 ID:Giu86bBl0
 通りすがりの本好きです。書いてから気付きました。
もう、お題に与えられた時間は終わっているのですね。でも、投稿しておきます。

 題 「新世界」


 僕は、カーテンから射し込む光の眩しさで、目を覚ました。
時計に目をやると、丁度、太い針が一周して真上を向いている。十二時間も寝てしまったようだ。
本来なら、もう会社で働いている時間。しかし、僕は、焦りすらしない。
携帯電話が着信の合図で光っているが、もうどうでもいい。
布団からおもむろにでると、冷蔵庫の茶に手をのばし、一気に飲んだ。冷茶が僕の視界をはっきりさせる。
 周りの空気が懐かしい。記憶の中の小学生のときの空気と同じだ。空気だけではない。周りに映る物々もそう、
全て固さがなくなっている。僕は、全てに好奇心が向けられているような感覚にとらわれる。



396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/04(火) 16:07:00.61 ID:Giu86bBl0
 昨日の母の死を聞いてから、僕は、自分が母に束縛されていたことにようやく気付いた。
ひたすら働き、多くを犠牲にして僕に時間を費やしてくれた母、僕は、母が大好きだった。
そんな母を僕は、裏切ることが出来ず、そのまま自分自身を失っていった。
 その自分自身を今、母の死によって取り戻した。取り戻させられたといったほうが、今の僕にはあっている。
突然、自由を与えられた囚人のようなものなのだから。
 
 考えるよりも、感じるという行為が僕を占領していた。ふと、昔、通っていた小学校に行きたくなった。
そのとき、携帯電話が鳴った。会社の後輩からだ。
 「大丈夫ですか?なにかあったんですか?」
 「心配かけて悪かったね。母が亡くなった。会社を少しの間休むと伝えておいてくれな
  いか」
僕は、手短に会話を済ませると、すぐに支度をはじめた。小学校に着けば、初恋の女の子にも会えるかもしれない。
あの時の思い出が波のようにあふれてきて、僕の支度を急かせた。
 ただ、今も乾いた悲しさだけは、残っている。

 了



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