【 無題 】
◇iwfekAZoO




130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/26(月) 00:14:50.73 ID:iwfekAZoO
俺は憲八が怖え。
多分『タケ』も『シンちゃん』も怖えはずだ。
先公の癖に竹刀持って来るなんて反則だもんな。
他の教室は定規だとか、幸江先生なんか何も持ってねえのにだ。
そのくせ、脅しだけじゃなくて本当に叩きやがる。
しかも、暴力的なのに大雑把じゃないと来た日にゃ、堪ったもんじゃない。
信心深いんだか、憲八は飯の最中でも、
「米残すなよ、米には7人の神様がいるんだ。
 もし神様馬鹿にして零したりしたら、コイツで5発尻叩くからな!」
そう言いながら竹刀をユラユラさせて説教しやがる。
そんな憲八だが、最近妙にそわそわしている。
流石に俺達の卒業が近いせいからだろうか?
何のせいにしろ、前より俺達を叩く様になったんだからいいもんじゃない。

「忠八っちゃん?」
「何だ? タケ」
タケが俺の背を叩く。
「良い事思い付いた」
「何が」
タケの話では、昨日親のカメラを勝手に持ち出して遊んでいたらしい。
ズッシリとした重さが癖になるらしい。
シャッターを押した時の音も気に入ったとかで、兎に角家の中でいろんなものを撮っていた。
でも、家の中も撮り尽くし、飽きて庭に出た。
庭に面した縁側には、タケの爺ちゃんがいた。
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/26(月) 00:15:56.99 ID:iwfekAZoO
「爺ちゃん、写真撮っか?」
タケは何気なく聞いたはずだった。しかし、
「ひ、ひぎぃ! た、剛夫そんなもんしまうんじゃ、早く」
驚き方が尋常じゃない。必死にタケの向けるカメラの先から逃げるのだ。
「ご、ごめん爺ちゃん」
すぐにタケはカメラを下ろして爺ちゃんに近付く。
その様子を見た爺ちゃんは、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
「ちゃんと近くで撮る」
元気よくカメラを向けた先で、タケの爺ちゃんは気を失っていた。

「そしたらコレだ」
アチチと、苦笑いしながら、タケは頭のタンコブを擦った。
「親父に殴られちった。お前は爺ちゃんを殺したいのか! ってな」
「それで、良い事ってなんだ」
「殴られた後で聞いたんだが、昔の人はカメラに写ると魂が無くなるって考えてたらしい」
「ほんとけぇ?」
「本当だって! 爺ちゃんの、あの怖がり方はおかしいもん」
「……憲八に通じるかな?」
「多分」

俺は計画を直ぐ教室に広めた。
俺達の卒業記念に写真を撮ろう。もちろん憲八が真ん中で。と。
不満の声はあったが、理由を話して、少しずつ説得していった。
そうして、日取りも決まり、その事を憲八に話す事になった。
「先生、放課後校庭に来てくれませんか?」
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/26(月) 00:21:54.98 ID:iwfekAZoO
かくして放課後、校庭に来た憲八はさぞ驚いた事だろう。
実際、憲八は目を丸くしていた。
教室の人数分と一つの椅子が並べられ、その正面にカメラが置いてある異様な風景だ。
驚くのも無理はない。
「な…何のまねだコレは」
「良いから、先生早く来て」
「う、うぅ」
学級委員長の声に、憲八は呻く様に声を漏らす。
一歩一歩、慎重に、カメラの真正面の椅子に近付く憲八に、そこにいる誰もが笑いを堪えた。
あの憲八が、こんなにも怯えるのは初めてだ。
「お、俺なんかが真ん中で良いのか?」
「もちろん」
全員が声を揃えて言えたのは、後にも先にもこれだけだった。
「…分かった」
呟く憲八の声に力はなかった。
そして、ようやく写真を撮る時になって憲八が叫んだ。
「ま、待て撮るのは構わんが、少しだけ待ってくれ!」
そのまま、憲八は何処かへと走って行った。

数分して、憲八が戻って来くる。しかし、変な物を抱えていた。
「遅くなって悪かった、写真撮るか」
戻って来た憲八は変に元気が良かった。

「知ってるか? 日本初の卒業写真には人体模型が写ってるんだって」
「は?wwwww」
「何でも、真ん中の教師が、怖がりで、写真撮られると魂が抜けるとか思ってたんだってさ」





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