【 月光 】
◆X3vAxc9Yu6




123 : ◆X3vAxc9Yu6 :2006/06/26(月) 00:10:15.71 ID:wn1opaig0
窓の外では、煌々と月が輝いている。
月光が私を暖めるように部屋に満ちている。
良い晩だ。
たまらない、良い夜だ。
胸の奥がざわざわする。
……こんな晩に布団の中でじっとしているなんて拷問だわ。
両親がいる階下が静かになったのを確かめて、
私はこっそりとベッドを抜け出した。
机の上のカメラをひっつかんで肩にかける。
こんな夜のためにクローゼットに常備してあるスニーカーを履いて準備は完了だ。
窓をそっと開け放つ。
吹き込んできた風をいっぱいに吸い込んで、私はこらえきれずに少し笑ってしまう。
さあ、行こうか。
心の中で呟いて、私は窓の外に身を躍らせた。

月を見上げながら歩く。
ひゅるりと冷えた風が私を撫でる。
外に出てみると案外寒い。
パジャマから着替えたほうがよかったろうか。
ぎゅ、と肩を抱く。
人の気配がない夜道だ。
彼女だけが私を見つめている。

125 : ◆X3vAxc9Yu6 :2006/06/26(月) 00:11:42.40 ID:wn1opaig0
人の気配がない交差点の直上に、
電柱の影に、
池の中に、
商店街のガラスに、
彼女はその姿を覗かせる。
私はその度に彼女を銀板にとらえた。

ずいぶん歩いた。
そしてずいぶん彼女を両手に納めることが出来た。
けっこう満足だ。
……そろそろ帰って寝ようかな。
きびすを返す。
ふああ。
ゆっくりとあくびをする。
その時だ、背後にもの凄い圧力を感じた。
――彼女だ。
なんとなく、ただの直感だったんだけど、私はもう一度だけ彼女を見ようと振り返った。
――そこには、凄まじい満月。
私はシャッターを押す余裕もなく、呆然と彼女を見つめた。
圧倒される。
心の底から美しいと思った。
ごおおお、と嵐のような音が頭の中で渦巻いていた。

ふっと気がつくと、夜は明けそうになっていた。
彼女はとっくにその輝きを失っている。
月が本当に美しいのはほんの一瞬なのだ。
私は家に向かって駆け出した。

後日現像した。
もちろん、私が写した彼女はあの瞬間とはくらぶべくもない。



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