【 公園での出来事 】
◆LDjybHVp




101 : ◆LDjybHVp/6 :2006/06/25(日) 23:48:40.30 ID:Q2i52xDL0

カシャッという小気味いい音に私はびっくりしてそちらを見た。
「撮っちゃった、ごめんね。」
そういって申し訳なさそうに立っていたのはまだ若いであろう、日に焼けた女性だった。
首から下げているのは今時のデジカメとは違う、昔ながらのカメラ。
普段なら激昂し騒ぎ立てるところなのだが今はとてもそんな気分にはならない。早くこの人がいなくなってくれればいいと愛想笑いで流した。
しかしそんな私の態度を不思議に思ったらしく、カメラマンは私の座っているベンチに腰掛けた。
「珍しいねぇ、勝手に写真撮られて怒らない女子高生なんて君が初めてだよ。」
私だって怒ってますよ―――言葉は飲み込んだ。ここでこの人をかまったらずっと付き合わないといけなくなる。
ひたすら無視だ無視。私は女性から顔を背け目の前の砂場で遊んでいる子供達を見つめる。
先ほどまでスコップの取り合いをしていた幼稚園児であろう男の子たちは今は仲良く砂山を作っていた。
さっきまで喧嘩してたのに、何でそんなにすぐ仲直りが出来るの?

裏切りじゃん、そんなの!!あんたなんか死んじゃえ!!

「…そんなに何もかもに絶望した顔しなくてもいいんじゃない?」
その言葉にびくっと身体が反応してしまった。思わずカメラマンを睨みつける。
あなたに何が判るって言うんですか?
彼女はこちらではなく子供達を見て微笑みながら言う。ストレートの髪がさらさらと風になびいていた。
「なんにもわかんないよ?あたしはなにもしらないもん。」
そういってポケットから煙草を取り出し一本咥える。こちらに勧めようと手を出しかけてやめた。
まだ未成年か、そう言ってくすくすと笑う横顔はとても綺麗だった。
美人にはわかんないんだ、私の悩みなんか。
口に出したその言葉が切っ掛けになって、私の口からは次々と言葉があふれ出てくる。
自分より綺麗な親友に嫉妬していたこと。その親友の彼氏に誘われたこと。
「お前のほうがあいつより可愛いよ」という言葉に乗せられてしまったこと。そしてあっさり捨てられたこと。
その結果親友を失い、学校では村八分にされていること。



102 : ◆LDjybHVp/6 :2006/06/25(日) 23:49:29.15 ID:Q2i52xDL0
彼女は目を瞑ったまま一言も喋らなかった。煙草の煙がふわふわと漂う。
先ほどまでこの人の存在を無視しようと思っていたのに今ではもう口が止まらない。
何かの魔法に掛けられたかのように私はその会って間もないカメラマンに全てを話してしまった。
話し終えて再び砂場に目をやると幼児達が霞んで見える。

「…頑張ってるね。」

今まで一言も口を挟まなかったその人がハンカチを差し出しながらそういった。
薄水色のそのハンカチは洗濯したてのいい匂いがする。
その匂いを感じた瞬間に再び涙が込みあげて来て私は差し出されたそれに顔を埋めた。
しばしの沈黙が流れる。幼児が砂場から走っていく足音が聞こえた。
「…写真ってね、不思議な力があるんだよ。楽しい思い出も悲しい思い出も画像と共にそこに残されるから。」
隣のカメラマンが立ち上がる気配がした。顔を上げると太陽に向かって大きく伸びをしている。
そして両手を下ろすと、優しく微笑みながらこちらを見る。
「そういう楽しみを他の人に味わってもらいたいから、私はカメラマンになったの。」
そういって彼女は首に掛けてあったカメラをこちらに差し出してきた。


103 : ◆LDjybHVp/6 :2006/06/25(日) 23:50:19.74 ID:Q2i52xDL0
受け取れ、ということなのだろうか。おずおずとそれに手を伸ばす。
初めて触ったカメラはずっしりと重く、日の光を受けて鈍く光っていた。
「あなたに半年それ貸してあげる。」
!?…そっ、こんなもの受け取れません!!
その言葉に私は驚きカメラから彼女に視線を移す。彼女の表情は吹いてきた風になびく髪に隠された。
「一番最初の写真はあなたの絶望している顔。最後の写真はどうなのか、半年後にみせてちょうだい?」
それだけ言ってまるで少女のように彼女は走っていってしまった。


今のは夢だったのだろうか?
私は地面に落ちた吸殻を見、ハンカチを見、彼女の走っていった方向を見た。
なんだったのだろうかあの人は。突然現れてあっという間に消えてしまった。
しかし手の中のカメラを見ているうちに最近ずっと曇っていた気持ちが晴れていくのを感じる。
―――写真ってね、不思議な力があるんだよ
私はとりあえずあの人がしていたようにカメラを首から下げてみる。
そしてそれを空に向ける。レンズ越しの青空は目に眩しかった。
とりあえず、二枚目。カシャッという気持ちいいほど落ち着いた音が聞こえた。
半年後、最後のシャッターを押すとき私はどんな顔をしているのだろう。
できれば笑顔で笑っていたい、そう思い私は彼女が去っていった方向を見、ゆっくりと頭を下げた。




品評会作品 お題「カメラ」 タイトル「公園での出来事」

ギリで作品投下!!文章雑でごめんなさいorz



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