99 :【品評会用】パパ ◆oGkAXNvmlU :2006/06/25(日) 23:46:16.63 ID:W04/g6Xu0
運動会は、カメラという武器を手に、意地とプライドをかけて挑む戦場だ。
確実な戦略と、磨かれたテクニック。ある者はその体力で、ある者はその財力で、あらゆる方法を駆使し、勝利を掴もうと足掻く。
そしてその根底に、何よりも愛があるのだ。
鈴木の父さんはスナイパー。超望遠レンズを装備して、ジャングルジムの上に朝から陣取り、ファインダーを覗き込む。
食べ物や飲み物をほとんど取らず、集中力を切らすことなく我が子を狙い続ける。
その集中力と根気を仕事で発揮すれば、そろそろ係長から昇進してもいいと思うのだが。
田中の父さんは最前線のソルジャー。小さなカメラひとつで、グラウンド狭しと駆け回る。
50m走も、障害物競走も、息子に併走し至近距離で撮りまくる。あげく騎馬戦にまで乱入して、華麗なステップと、信じられない体さばきで、乱戦の中を疾走する。
勤め先の市役所では、イライラするほど動きが遅いというのに。
里井の両親はマシンガン。2台のカメラを、父さんがとんでもない速度で連射して、母さんが交互にフィルムを交換する。
卓越した技術とコンビネーションで、娘の写真を何万枚と撮っているのが自慢。
ビデオカメラという文明の利器があることを、誰か伝えてあげて欲しい。
高橋の父さんは殺し屋。普段は存在感が無く、どこにいるのかわからないのだが、息子のゴールの瞬間や、転んだ瞬間は、いつもベストポジションで物にする。
しかし、会社でも存在感は薄く、派閥のポジション取りもパッとしない。また長期出張に旅立つようだ。
100 : ◆oGkAXNvmlU :2006/06/25(日) 23:46:38.22 ID:W04/g6Xu0
うちの父さんは非国民。戦場に姿さえ見せないから、僕がどんなに頑張っても、アルバムには残らない。
仕事が忙しいとか、そんなのは言い訳だ。
母さんが作ってくれた豪華な弁当も、二人で食べるのは味気ない。
僕が一年間で一番嫌いな行事。早く終わって欲しい行事。
でも、頑張って1位になる。他の奴らのアルバムに、1位の写真を残させたくないから。
先頭でテープを切った向こうに、なぜか使い捨てカメラを持った父さんが待っていた。
慣れない争いで、服と髪が乱れている。
汗を掻きながら、僕の写真を撮る父さんは、すごく嬉しそうだった。
「仕事抜けてきたんだよ。50m走に間に合ってよかった。ヒデ、なんで1位なのに泣いてるんだ?」
おしまい