【 Decree of Silence 】
◆2LnoVeLzqY




387 :Decree of Silence ◆2LnoVeLzqY :2006/06/19(月) 00:06:19.81 ID:P4PbHQI60

時刻は深夜。玄関のドアについている郵便受けが、かちゃんという乾いた音を響かせた。
僕はパソコンデスクの椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。
郵便受けの中には「No.1」と書かれたCD-Rが入れられていた。どうやら郵便物ではないようだ。

僕が住んでいるのはおんぼろアパートの2階の端で、隣は空き部屋のはずだった。
このCD−Rをそのまま捨てるのもどうかと思い、試しにパソコンに入れてみた。
その中には音声ファイルがひとつだけ入っていた。とにかく聞いてみよう。
音楽プレイヤー起動後、10秒くらいの沈黙。そして突然の音声。

「…世界ヲ終ワラセタイデスカ?…」

変声機を通したような、妙に甲高い声。男か女かもわからない。
僕は背筋が寒くなった。心臓の鼓動が早くなったのがわかる。
世界を終わらせる?悪戯に決まってる。
少しは冷静さを取り戻した頭でそう考え、音楽プレイヤーを終了しようとした。
だが、録音された音声はまだ三分の二も残っていることを、プレイヤーは示していた。
今すぐCD−Rを取り出して、そのまま捨てるべきか。それとも、どうせなら最後まで聞くべきか。
僕が出した結論は後者だった。どうせなら、最後まで聞いてから捨ててもいいじゃないか。

最初の言葉からは、また無音が続いていた。
しばらくして、収録時間の半分に差し掛かった頃、再び音声が流れ始めた。

「…モシ本当ニ、ソウ望ムナラ、最後マデ聞キキナサイ。望マナイナラ、コノCD−Rヲ破壊シナサイ…」

音声は残り半分。頬を冷や汗が伝っていた。
頭では悪戯だとわかっているはずなのだ。だけど、心臓の鼓動は早くなり続けていた。
CD-Rを取り出すべきか、聞きつづけるべきか。
きっと取り出すのが正解なのだ。だけど、僕の指が言うことを聞かなかった。音声は流れつづける。


388 :Decree of Silence ◆2LnoVeLzqY :2006/06/19(月) 00:07:26.27 ID:P4PbHQI60

それから沈黙が続いた。収録された音声は残り10秒程度。
やはり悪戯だったのだ、プレイヤーを終了しようとした、そのときだった。
かちゃん。
僕は思わず悲鳴を上げそうになった。郵便受けに何かが入れられた音だ。
恐る恐る、僕はドアに近づいて、そして郵便受けを覗く。
そこには、「No.2」と書かれたCD-Rが入れられていた。
眩暈が僕を襲った。

悪戯にしては出来すぎている。そもそも、今このCD−Rを郵便受けに入れたのは誰なのだ?
このアパートの全員に聞き込みをする?いや、そもそも俺が犯人の立場なら正直に答えたりしないだろう。
警察に持っていっても、俺自身に実害は無いのだから、悪戯と見なしてまともに取り合ってくれないだろう。
結局どうしようもない。もう夜の2時を回っていた。
僕は2枚目のCD-Rを放置して、眠ることにした。

朝になった。おもむろに玄関の方に目を向けて、そして愕然とした。
郵便受けから溢れんばかりのCD-R。床にも相当な数が転がっていた。
一体誰が、いつの間に。いや、もうこの問いは意味をなさないだろう。
つまりは、聞けということなのだ。逃げ場は無いらしい。
諦めてその中のひとつ(どれも同じNo.2だった)をパソコンに取り込んだ。
再び音楽プレイヤーをさせ、前と同じ沈黙。そしてあの音声が流れ始めた。


389 :Decree of Silence ◆2LnoVeLzqY :2006/06/19(月) 00:07:46.66 ID:P4PbHQI60

「…ソレデハ、望ミ通リニシマショウ。全テノ窓、ドアニ鍵ヲ掛ケナサイ…」

ふざけるな、誰が言うことを聞くか。
しかし思いと裏腹に、指は震えていた。
そしてまたしても、音声はまだ半分残っていた。

「…従ワナイ場合ハ、別ノ世界ガ終ワルコトニナリマス」

そこで音声は途切れていた。
別の世界?とにかく、世界は終わるってことなのか?
じゃぁどうすればいい。どちらにせよこの音声は世界が終わると言っている。
頭の中の、僅かに残っていた冷静な部分がかろうじて主張する。そうだ、これは冗談なんだ。
なら話は簡単だ。無視すればいい。だけど音声に最後まで従うのはしゃくだから、窓とドアの鍵は全部開けておこう。
そうして鍵を全て開けたあと、僕はいつもどおりのネットサーフィンへと戻っていった。


突然、僕の首に何か冷たくて細いものが触れたと思うと、急に首を締め付け始めた。
一体誰が。そういえば、開けっ放しのドア。
息ができなくなる。何か聞こえる。どこかで聞いた声。そうだ、あのCD-Rの声。

「…従ワナカッタノデ、アナタノ世界ヲ終ワラセマス」

ますます首は強く締まる。別の世界、つまりは僕の世界。
遠のく意識の中で、僕は最初のCD-Rの音声を思い出した。
「望まないなら、このCD-Rを破壊しなさい」

僕が最後に見た光景は、パソコンデスクの上で怪しく輝く「No.1」のCD−Rだった。



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