【 天罰 】
◆AhZGjKiCcs




381 :天罰  ◆AhZGjKiCcs :2006/06/18(日) 23:51:30.74 ID:U+OXDHmL0
品評会作品投下
お題:ことば
タイトル「天罰」です。

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「おかえりなさい」
彼女の愛らしい笑顔はいつも私の帰りを出迎えてくれる。
「ああ、ただいま」
その笑顔を見るだけで、労働の疲れはどこかへ飛んでいってしまった。
「もうすぐご飯できるから、少しだけ待っていてね」
そういって彼女はキッチンへと戻り、私は部屋に入って汚れた服を着替えてからダイニングへと向かう。
キッチンからは、なにやら香ばしい匂いと、すこし調子の外れた彼女の鼻歌が流れてくる。
「おまたせ〜」
彼女はテキパキとお皿を並べ、食卓の準備はまたたくまに整った。
「はい、どーぞ」
「うん。それじゃ、いただきます」
「めしあがれ」
おいしい料理を食べながら、他愛もない話題に花を咲かす。
彼女と過ごし、こうして話をしているだけで、晩餐はいつも幸福なものとなる。

夜もふけ柔らかな布団にくるまって、隣で横になる彼女に今日最後の声をかける。
「おやすみ」
「おやすみなさい」



382 :天罰  ◆AhZGjKiCcs :2006/06/18(日) 23:55:29.75 ID:U+OXDHmL0
いま私の目の前には、大いなる主が存在する。
これこそが私が崇める神なのだ、と直感に訴えかけてくるあまりに偉大な存在。
形はどうやら人と相違ない、顔は……なにやら霞がかかったようにぼんやりとしていて判別できない。
そして主は、語る。口を開くことなく、心へ語る。
「人間は傲慢にも私へと近づきすぎた。罪を知り、罰をうけるがよい」
罪、罪とはなんだ?そして、罰とはなんだ。

そこでパチッと目が覚めた。窓から入る光を見るに、いつもより三十分以上は早起きのようだ。
隣には、彼女はもういない。今頃は私のお弁当と、朝食作りを同時に進めているはずだ。
さっきまで見ていた夢は、ありありと思い返せる。なにか凄く印象に残る夢だった。
私は本当に神に出会っていたのかもしれない。

洗面所へいくため、キッチンを抜けるときに彼女に声をかけた。
「「おはよー」」
同じタイミングで、彼女も挨拶してくれたようだ。
というのに、私には彼女の言葉が聞こえなかった。まだ寝ぼけているのかな……

顔を洗って歯を磨き、服を着替えに部屋に戻る、と外がなにやら騒がしい。
窓から外を窺うと、こんな朝から外には人がごった返している。
手早く着替え、ダイニングへ行って、彼女の尋ねてみる。
「今日はお祭りか何かあるの?外が騒がしいみたいだけど」
あれ、なにか彼女が変な目で見ているぞ……変なこと言ったかな。



383 :天罰  ◆AhZGjKiCcs :2006/06/18(日) 23:56:41.01 ID:U+OXDHmL0
「◎▽×△☆……」
彼女はいま、何をいった?
「ん?なんて言ったの?」
「★◇●□△……」
まただ、彼女はなにかおかしな音を発している。何をやってるんだ?
「どうしたっていうんだよ、なにかの悪戯?」
「▲○◆☆凵c…!!」
「◎□◆★∇……!!」
「□◎▼△□……!!」

おかしい、おかしい、彼女がおかしい。舌足らずな幼児より、なお言葉になっていない。
いったいどうしたっていうんだ?なんだっていうんだ?
私は彼女が無性に怖くなり、その場を逃げ出して外へでた。
今日はやっぱりなにかおかしい、こんな朝からなんで外に人があふれているんだ。

「ζγдηл……!!」
「≠√∂∬∝……!!」
「αθξЭб……!!」
町のあちらこちらから耳慣れない音が聞こえる。
なにかがおかしい、なにかがおかしい。町がおかしい、みんながおかしい。
おかしいのは実は私の耳なんじゃないだろうか。
とにかく逃げた、おかしな音たちから逃げた。逃げた、逃げた逃げた……

逃げる際に仕事場である建築現場を通ったら、今まで組んできたものが全て粉々に崩壊していた。
残っているのは建築予定の看板だけ
『ここは バベルの塔 建築予定地』
(了)



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