【 青虫 】
◆X3vAxc9Yu6




394 : ◆X3vAxc9Yu6 :2006/06/19(月) 00:21:11.00 ID:NpAU3uoN0
僕の彼女は無口だ。
いつも僕の話を聞いてくれるけど、
自分はあんまり話さない。
「うん」とか「そう」とか「それはよかったわね」とか……。
僕は彼女の声が聞きたいので、相槌を打ってもらうために、ずっと話す。
結果として僕らの逢瀬はずっと僕が話し続けることになる。

「今日ね、とても楽しいことがあったんだ。
クラスでね、あのハゲの担任がさ……」
「そう、そんなことがあったの」

「聞いて、あのね」
「うん」
「ちょっといいことしたんだ。電車でさ、妊婦さんが居て……」
「いいことしたわね」

「昨日は酷かったよ。雨なのに練習なくならなくてさ……」
「そうね。昨日の雨はひどかったわ」




395 : ◆X3vAxc9Yu6 :2006/06/19(月) 00:21:33.60 ID:NpAU3uoN0
端から見るとたぶん僕は嫌われているように見えるだろう。
でも、彼女は僕だけに分かるように、そっと本心を教えてくれるんだ。
表情の微妙な変化とか、口調とかでね。
僕がそういう凄く微妙なものに気を配っていることを彼女は知っている。
だからそばに居て、話を聞いてくれるんだろう。

最近よく彼女のことが青虫みたいに見えてくる。
僕が与える言の葉を、浴びるように食べ続ける、僕の可愛い青虫。
いつか蝶になって飛んでいってしまうのだろうか。
それとも僕のために美しい繭を編んでくれるだろうか。
いまはただ、僕は与えられるだけのものを与え続けているけど、
僕はなぜかそれで幸せなんだ。

今日も喋り続けながら、彼女の羽化を僕は夢見る。



BACK−Decree of Silence◆2LnoVeLzqY  |  indexへ