【 檻の中 】
◆iJpyrBPc02




258 :お題「ことば」 題名「檻の中」 ◆iJpyrBPc02 :2006/06/18(日) 01:14:23.25 ID:sWF4HbkH0
ある日、動物園に行くと動物の言葉がわかるようになっていた。
「だるい」
「腹が減った」
「狭い狭い狭い」
檻へ近づくとそれはよく聞こえた。

その日気温は30度を超え、暑さに弱い僕は20分もしないうちに
ベンチに腰をおろすことにした。
ベンチの前にはマントヒヒの檻があり
年老いたのが1匹、タイヤの上に座っていた。
僕はポケットからハイライトとライターを取り出し
タバコに火をつけ、じっと檻のほうへ耳をすませてみた。
「煙を吸ってもうまいんだろうか」
マントヒヒの声が聞こえてきた。
「うまいよ。普段は吸わないんだけどね」
独り言のつもりで僕はその問いに答えてみた。




259 :お題「ことば」 題名「檻の中」 ◆iJpyrBPc02 :2006/06/18(日) 01:14:54.28 ID:sWF4HbkH0
「お前は俺の言葉がわかるんだな」
どうやらこのシステムは意思の疎通もできるらしい。
「そこの暮らしはどう?」
「なにも。おもしろそうと思うか?」
「いや」
マントヒヒと視線を合わすのは気持ちのいいものではない。
しばらくの沈黙の末、マントヒヒが口を開いた。
「俺に名前をつけてくれないか?」
「名前?」
「そう。暇つぶしに名づけてくれ」
僕は今日彼女と一緒にこの動物園に来るはずだった。
今は左の頬が痛い。

「ネコってのはどうだろう」
「ネコ?どういう意味を持つんだ?」
「気高く気まぐれってとこかな」
「そうか、悪くない。今日から俺の名前はネコだな」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
僕はベンチから腰をあげ、動物園をあとにした。
その帰り道、僕は軽トラックにはねられ、鎖骨と右手を骨折した。



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