【 ひそかな食事 】
◆X3vAxc9Yu6




358 名前:ひそかな食事 ◆X3vAxc9Yu6 投稿日:2006/06/12(月) 23:01:12.45 ydaB887r0
「今日ちょっと調子悪いんだ。なんか寒いし」
弁当の時間、一緒に弁当を食べてるハルカが呟いた。
寒いったって今日はもう七月。
クーラーなんてついてない校内はまさに焦熱地獄と言っていい。
しかし彼女のくちびるは真っ青で、かすかに震えてもいるようだ。
それに、もともと食が細いほうだが今日は特にひどい。
まだ漬け物しか箸つけてないし。
見た目は風邪みたいだけど、もしかしてアレかな。
ここのところ精神的に参ってたし。
「顔色悪いよ。保健室行く?」
と言いながら彼女の肩や髪をさり気なく触ってアレを探す。
「いや、たぶん大丈夫……だと思う」
かなり辛そうだ。
早くしないと……でも見つからないなぁ。
アレのせいじゃないのかな。


360 名前:ひそかな食事 ◆X3vAxc9Yu6 投稿日:2006/06/12(月) 23:01:37.30 ydaB887r0
……あ。
いたいた。
やっぱりこいつのせいか。
ハルカの襟元にそれは居た。
居た、という言い方が正確なのかどうかよく分からないけど、
ふわふわと綿のような手触りのそれはハルカの首のまわりをぐるっと取り巻いているようだ。
ぴくぴくと脈動している。
私はそれを親指と人差し指でつまんで、静かに引っ張った。
ず。
ずずずずず。
ずるり。
――よし取れた。
ふっとハルカから肩の力が抜ける。
「え、あれ。今なんかした?なんか楽になったんだけど」
「えへへ、何もしてないよ」
「マジ?なんか触ってもらったら急にさあ」
「それはよかった」
指先のそれは、私以外には見ることが出来ないようで、
右手をぶんぶん振っても彼女は気付かない。
私は逃げ出そうとするそいつを、ちゅる、と吸い込んだ。
ふう。
ごちそうさま。
「あ、お昼終わっちゃう! 早く食べなきゃ」
「ほんとだ!」
ぱくぱくと弁当を食べ始めたハルカを見ながら、私はこっそりと微笑んだ。

(了)



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