【 肉 】
◆twn/e0lews





228 名前:肉 ◆twn/e0lews 投稿日:2006/06/12(月) 01:24:20.40 6DIDBJx70
 初めての客は酷く口が臭かった。その時の事はハッキリと覚えているが、その男は私が来る前に焼き肉を食ったのだと言っていた。
特別金持ちという風体でもなかったが、金に困っている訳でもない、典型的な小ブルというヤツだったのだろう。
 安いシティホテルの一室。呼び鈴を押した時、私は少し緊張していた。
男性経験が多い方ではなかったし、自分の容姿にはハッキリ言って自信がなかった。
私の顔は細目で、しかも目立つ程のツリ目だ。小さい頃は、我が家の貧しさも手伝って良くキツネ女などと馬鹿にされ、それが堪らなく嫌だった。
男はドアを三十度程開き、顔だけを表に出して私の体を舐める様に観察した後、部屋へと招き入れた。
こんなものか、男の呟きは今も私の耳に残っている。あるいは、今も残る記憶は男がチェンジと告げなかった事に対する安堵からかも知れない。
 部屋に備え付けられていたソファには、スーツケースと、着替えらしきモノの詰まった大きめのドラムバッグがあったから、男は出張か何かでそこに泊まっていたのだろう。
左手の薬指にはめられた指輪を見た時は少し戸惑ったが、すぐに自分の仕事を思い出し、こんなモノなのだろうと思った。
テレビではペイチャンネルが流れていて、白人の女が三人の男に犯されていた。
男が酒を飲むかと尋ねたので、私は首を振った。緊張をほぐすには飲むべきだったかも知れないが、酒は苦手だった。
 私はどうするのかと尋ねた。シャワーを浴びるのか、それともすぐに始めるのかをだ。
これは店側の指導で学んだ事で、客の中にはシャワーを浴びずに汗くさいままのプレイを望むモノもいるからとの事だった。
男にそういった趣味は無かった様で、私にシャワーを勧め、自分は後で浴びると告げた。
 ユニットバスのシャワーで体を流した時、別に恋人に抱かれる訳でもないのに、ムダ毛が少し気になった。
濃い訳でもない体臭を消そうといつもより丁寧に体を洗い、下着の線が残っていないか確認したりもした。
シャワーを終えた私が備えられていたバスローブを着て部屋に戻ると、男はすれ違う様にシャワーへと向かった。
男は、待っててくれ、と言っただけで、何も会話はなかった。


229 名前:肉 ◆twn/e0lews 投稿日:2006/06/12(月) 01:24:41.77 6DIDBJx70
 そもそも、私がホテトルとして働く様になったのはお金だった。
我が家は貧しく、仕送りは一銭も無かった。学費も自己負担、私立の専門学校である。
家賃、生活費、学費、自然と私は風俗の戸を叩いていた。高校の先輩で、同じ学校に通っている人が居た。
その人も同じような家庭環境だったから、やはり風俗で働いていて、私は店を紹介して貰った。処女ではなかったし、大したことで無いとは思っていた。
 男は私のヴァギナを舐めた、私の付き合った男は皆そういう事をしなかったので、初めての事だった。
シックスナインの体勢になり、男のペニスを咥えた。ホテルの石鹸の匂いだった。
その後、本番は良いのか、と男は尋ねたので、一時間で一万上乗せだと答えた。
 男のペニスが入ってきた時、私は突然冷静になった。奇妙な感覚だった。
体は反応しても、頭の奥では自分が血の回っていない人形になり、男はそれを使ってオナニーしているのだと思った。
事が終わり、金を受け取って出て行く私を見送った男は、別れ際に、お前はキツネみたいだな、と笑って言った。私はその言葉を聞いても、何も感じなかった。



230 名前:肉 ◆twn/e0lews 投稿日:2006/06/12(月) 01:25:02.03 6DIDBJx70
 私は焼肉を食べている。きっと今、私の口臭は酷く臭いだろう。
バイトを紹介してくれた高校の先輩が向かいに座っている。今日は先輩に、オゴるから、と誘われた。
先輩は付き合っていた男に振られたらしく、酒が飲みたかったらしい。
「ホテトル嬢は無理ってさ、アタシの金で酒飲んだ事ある癖に」
 彼氏にはキャバ嬢をしているのだと嘘を吐いていたらしいが、それが先日バレたとの事だった。
「金臭いマンコの女と付き合いたくない……だってさ」
 先輩は言いながら泣いていた。彼氏との惚気話は以前に聞いた事があったが、それだけ好きだったのだろう。
化粧が落ちて、黒く染まった涙の跡がピエロの様だった。
「悔しいなあ……何が悔しいって男にそんな事言われたのがよ。アイツら金出せば女買えると思ってる癖に」
「先輩の彼氏もそんな男だったんですか?」
「似た様なモンよ。アタシ知ってるもの、アイツ風俗大好きだったんだから」
 私は焼肉を食べている。金を出すのは先輩だが、その金は先輩のヴァギナが男達から銜えて来た金だ。
金を払った男は私達を抱いたのだろうか? それともオナニーをしただけなのだろうか? 
少なくとも私は、口臭の酷かった男の記憶があるが、あの男は私と街ですれ違った時、私を覚えているだろうか?
「でもまあ、その馬鹿な男共のお陰で美味しいもの食べれてるんだから、良しとするか」
 先輩はそう言って笑ったが、顔にはハッキリと涙の跡が残っている。
私は焼き上がったカルビをタレに付けて口に運んだ。タレはニンニクが効いている。細い目は、少しだが、熱い。






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