【 魚民の女王 】
◆sTg068oL4U





213 名前:魚民の女王(1) ◆sTg068oL4U 投稿日:2006/06/11(日) 14:32:58.22 nUpbfJB90
いきなり自分の非を宣告されて面食らった。
「あんた一次会でなんて言った?ご飯を沢山食べる女性が好み?綺麗事言ってんじゃないわよ!」
 今日はバイトの飲み会。二次会のカラオケボックスへ行く連中と魚民の前で別れたとき、
山内さんに袖を引っ張られたのだった。
「はっきり美 人 の 大食漢が好みって言えこの偽善者!美女なのにオトコって矛盾じゃない!
もちろんオトコは漢字の漢よ。大食いに女が排除されてるなんて女性差別だわ」
 それから(途中まで方向一緒だからいきましょう)って言われたんだっけ、無口で色素の薄い普段の
顔からは想像も付かない真っ赤な顔で。
「男なんてみんな馬鹿よ、無邪気さを装う美人の戦略にコロッと騙されちゃうんだから。
ブスが同じことしても失笑しかしないくせに」
 それで一緒に歩いてたら突然、(私の部屋で飲み直さない?)とその真っ赤な顔で言われたのだ。
必死で説得したが引き下がらないので、間を取って魚民に戻ってきたのだ。
こうなるくらいなら店員に(忘れ物ですか?)て聞かれたときすぐ(こいつを交番に届けてくれ!)
と言うべきだった。
「お姉さん軟骨揚げこっち!それから、キムチチャーハンと鶏唐揚げとカニオムレツとやきとり塩と
たれ両方追加ね!」
「もうやめとけよ」
「うるさいわね!大食いの女がすきなんでしょ!目カッポジって萌えの真実をちゃんとみなさいよ!」

 一次会で好きな異性のタイプみたいな話になったので、「巨乳の中学生が好き」というより無難だ
ろうと思い、答えた内容が間違いだった。実際、太ることを気にして小鳥が啄む量しか食べない娘よ
り、美味しそうに特盛りを喰らう娘の方が見ていて気持ちがいい。
「あんたのいう気持ちの良い食べっぷりなんて幻想なのよ!所詮可愛い子が『転んじゃった、てへ☆』
て言うのと同じ、欠点を見せつけて萌えさせようとする汚いやり口なのよ」
「それはさっきも聞いたよ」
「黙れ偽善者!そんなに大食い女がすきなら私を見て萌え〜って言ってみなさいよ!」
「”萌え”って口に出して言う奴なんてテレビの中にしか居ないって」
「あんたがオタクを代弁するんじゃないの!」
 それは揚げ足取りにもなってない。逃げなかったとはいえ、あまり喋ったこともないバイトの同僚に
、何でここまで罵倒されないといけないのだろう・・・・・・


214 名前:魚民の女王(2) ◆sTg068oL4U 投稿日:2006/06/11(日) 14:34:50.82 nUpbfJB90
「わかった、つまり美人の大食漢ならみんな可愛いと思うんだろ?まぁ話は最後まで聞け。いまから
美人になる魔法をかけてやるら。
子供の頃近所の公園にいたおじさんに手解きを受けたんだよ、それこそ暗殺の仕方から迷い猫を探す
方法まで。からかってるんじゃないよ。信じる信じないは勝手だけど、ちゃんと明日から少しずつ、
山内さんは美人になっていくから。
 ホントだって、数ヶ月で驚きの白さ!今でも肌は白いか。嘘でも信じた方が楽しいだろ?だから元気
出せよ。私に惚れたのかって?死ねブス。冗談だよ冗談、お願いだから口に物詰めたまま泣かないで
よ・・・・・・」

――それで、魔法をかけてあげたんだ。
 腰掛けていたベットにドサッと寝ころぶ。反動で顔に載ったストラップを払いのけ、続きを話す。
「うん。お洒落が楽しいんだろうね、垢抜けて見違えるようになった」
 魔法の効果は予想以上だった。
「それから随分明るくなった。良く喋るようになったし、表情がいつも明るいよ」
――相変わらず大食いなの?
「それが職場で好評だよ。ものを食べてるときも、例によってニコニコ顔だからね。食に対してああも
貪欲なのに、それでいて少しも意地汚く見えない。鼻水出しながら食べてた過去からは信じられない。
まるで食べ物と同時に幸せを噛み締めてるようだよ」
――食べ方の話じゃなくて、食べ物の批評みたいね。
「その位、今の山内が食べると何でも美味しそうにみえるんだよ」
 あれから山内と会話らしい会話はしていない。でも楽しそうで何よりだ。


215 名前:魚民の女王(最後) ◆sTg068oL4U 投稿日:2006/06/11(日) 14:35:57.29 nUpbfJB90
――よく遠距離恋愛中の彼女にそんな話が出来るわね。二人っきりで魚民で飲みましたなんて、普通
は黙っておくものよ。
 そうだった・・・・・・魚民での修羅場を経験すると、その後何かあるなんて想像もできない。でもその場
にいない美奈からしたら、「その後」を疑って当然なのだ。それ以前に何でも明け透けに話す必要が
あっただろうか?
――何にも疑ってないけどね。同じ女として解るの、あなたの隣りで寝てたって何も危ないことなんか
ないわ。
 それはそれで心外だ。もし猫耳美少女が家に押し掛けてきたら、躊躇無く家に入れてやる。
「今じゃ寝子猫堂のリナ=インバースって呼ばれてるよ」
――あんたの職場はオタばっかりだもんね。でも美人になっただけでそうまで変わるものかしら?
「あ、言ってなかった?かけたのは”美人になる魔法”じゃなくて、”自分が美人に見える”魔法。
本人にはああいったけど、流石に顔そのものが少しずつ変わっていったらおかしいでしょ」
――じゃあなんでそんな劇的な変化を?
「それだけコンプレックスが取れて前向きになったんだろうね。それを機に本人が努力したのも大き
いよ。美人が綺麗な格好し始めるより、ブスが急に垢抜ける方がインパクトが強いってイエローキャブ
の元社長も言ってたし。本当に美人かよりも、何時も笑顔でいることの方が大事なんだよ」
 小さな声で「多分」と付け加える。このまとめは少々恥ずかしいけど、山内をみてるとそう言わざる
を得ない。
――でも私に言ってないことが一つあるでしょ。
「いや、疚しいことなんか何一つ無いよ」
――本当は違う結末を予想してたんじゃないの?顔はそのままで容姿に自信だけ持つと、プライドだけ
が肥大して分不相応な行動に出る。周りとの認識のギャップを埋められず益々孤立する。でも自分を
美人と信じて疑わないから悲劇のヒロインをやめられない、それで益々荒れる。本当は絡まれた腹い
せに・・・・・・
美奈が話している途中で勢いよく立ち上がり、それを遮る。
「い、今は・・・・・・反省している」

終わり



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