【 肉食 】
◆yzmb2eMBHA





194 名前:肉食1 ◆yzmb2eMBHA 投稿日:2006/06/11(日) 10:25:49.46 uHHvcMVs0
相も変わらず私は黙々と肉を口に運ぶ。
あと十キロは残っているだろうか。
時間は足りない。
そういえばいつの間にか足は動かなくなっている。
本当に急がなければいけない。
このままではこの部屋から出ることはできないだろう。ここから逃げることも無理だ。
振り返ることは出来ないので全体は判らないが、前面を見る限りではそれなりに広いように思える。
窓の類はないので外を見ることはできない。あったところでここから動けないのだが。
ドアはある。錠は確認済みだ。私はそこから入ったのだろうか。記憶が曖昧だ。
私は寝そべって数十キロの肉を目前にしている。
食中毒の心配はしなくてもいいのだろうか。ここは廃ビルの様に汚い。
野菜もない。ビタミンは私には必要ないらしい。
ナイフで肉を切り、口に運ぶ。
それだけの作業が今は辛い。体制の所為か上手く食道を通ってくれない。
骨が邪魔だ。
切るたびに出る血液が少なくなってきている。赤で誤魔化されていた脂肪や肉が確認できる。
少し気持ち悪いが食べなければ仕様がない。
今の私には食べること以外は許されていない。
それももう少しで終わるだろうか。
体に違和感を覚える。左手が動かない。
急いだ方がいい。右手が動かなくなったら終わりだ。
私は胸の肉に取り掛かる。



195 名前:肉食2 ◆yzmb2eMBHA 投稿日:2006/06/11(日) 10:26:16.70 uHHvcMVs0
雌だ。
そこで少しだけ「肉」のことを考えてしまった。
右手の指は4本しかない。
左手は既に私が食している。
顔を覗いてみる。ルール違反かもしれないが、このくらいはいいだろう。
勿論絶命はしている。
美しいとはいえないが、それなりに整った顔立ちをしている。
外では男性に言い寄られる方ではなかったか。そんな無駄なことも考えてしまう。
なぜ指が一本ないのだろう。不覚にも想像した。
気分が悪くなる。やはり肉のことを考えるべきではない。
もう少しで終わる。臓器は食べなくてもいいだろう。
肺が黒い。喫煙者だったのだろう。私は少し嫌悪した。勿論この女が喫煙者ということに。
肝臓も患っているように思える。実際のところこんなものだ。
背中が少し軽くなった。
ああ、もう駄目だな。
最後の抵抗を試みる。もう少しなのだ。
私が肉にナイフを伸ばした瞬間、右目に何か刺さった。
左目で確認してみるに、フォークだろう。
とうとう終わりだと知った。数時間ご苦労様でした。
後ろの男は少しフォークに力を入れる。
目からフォークが生えている様を楽しんでいるとき、私の中で何かが切れた。


―了―



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