【 くま。 】
◆Vz4rVzpChA





183 名前: ◆Vz4rVzpChA 投稿日:2006/06/11(日) 07:20:14.60 qRsXOJLe0
「クマ食う!?」
その時おれは、おれは本当にびっくりしたんだ。ホントだ。


アイツは、とっても変なヤツだった。
高校生になっても、アリを食ってうめぇうめぇ言ってたり、
モテる癖に太った毛深い女を好きになったり、なんかオレもよくわからない。
で、授業中暇になったオレとアイツは、とりあえず女の話をしていた。
「月ノ輪たん、かわいいよなぁ…」
「月ノ輪?」
唐突にアイツが変なことを呟いたから、オレは反射的に聞き返す。
「ほら、お前の学校の二年の、何? あのツインテールの」
「ああ、あいつかぁ! それがなんで月ノ輪なんだよ」
「なんかニックネームらしいぜ? 知らんけど。
 でも、かわいいよなぁ、なぁ、思うだろ? かわいいよなぁ」
変な笑顔になって、アイツは笑う。
ツキノワグマとかから来た名前だろうから、やっぱり今度も太った毛深い女なのだろう。
「あぁ、月ノ輪たん食いてぇなぁ、うまそうやなぁ」
「そうだなぁ……って、コラ」
オレがそういってつっこむ。
その二秒後、アイツは言ったんだ。
「あ、そうだ。クマ食いてぇ」
「クマ食う!?」
その時オレは、オレは本当にびっくりしたんだ。ホントだ。


185 名前:品評会「くま。」2/3 ◆Vz4rVzpChA 投稿日:2006/06/11(日) 07:22:17.57 qRsXOJLe0
「今日クマ食いに行くんだけどさ、オマエも行くだろ?」
日曜日になって、アイツから電話が掛かってきた。
最初は断ったのに無性にウズウズして、いつのまにか「やっぱ行くわ」という言葉が滑り出てくる。
同時に、体が用意を始めていた。
「…近藤さん、いるかな」
逡巡して、とりあえずポケットにぶちこむ。
「まぁ、備えあれば憂いなし、とか言うし。」
よく考えればその行動はいろんなことを抜きにしても明らかになにか間違えていた。
けれど、思考がちょっと狂っていたその時のオレが、それに気づけるわけもなかった。

「もうクマは出来上がってるっぽいからさ、オレたちも急ごうぜ」
電車の中でアイツは言う。
その隣で、オレはクマが喘ぐ姿を想像して勃った。
直後自己嫌悪して、萎えた。


186 名前:品評会「くま。」3/3 ◆Vz4rVzpChA 投稿日:2006/06/11(日) 07:22:45.95 qRsXOJLe0
二時間後にオレとアイツは電車から降りた。
木造の無人駅が出迎えてくれて、空気を吸い込む。
確かにクマのいそうな場所だった。
鼓動が高鳴っていくのを感じる気がする。
田、田、田、そしてその向こうに、山―クマ!
山の中。誰が来るかも解らない場所で、木に手をつかせて、バックで…。
二時間悶々としていたオレの頭の中では、クマが熊田曜子化していた。
いや、今思えばオレはあまり熊田曜子は好きじゃないのだけれど。
「ここがオレん家。裏の山にクマがうようよ居んだよ」
笑ってアイツはいう。
その笑顔が、オレには妙にいやらしく見えた。確かに見えた。
「ただいま、かあちゃーん」
「おぉ、腹減ったべぇ。クマはもう用意でぎったっさげな。」
「せんきゅ」
「お邪魔しまーす」
……あれ、なんか変だな? オレは首を傾げる。
「今日は腹いっぺぇ食ってけろな!」
扉が開く、その向こう。
つくえ、並べられた皿。
なべ、ぐつぐつ煮えてるなべ。
にく、なんのにく? え? なにこれ? え?

ハートビートが一瞬止まって、
電車の中から手に握り締めていた近藤さんが、たたみに落ちた。
それと一緒にオレの中のクマへの想いも、たたみに吸い込まれていった。



「クマ食う!?」
その時おれは、おれは本当にびっくりしたんだ。ホントだ。



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