【 想い人 】
◆aWbG51RQSw




745 名前: ◆aWbG51RQSw :2006/06/04(日) 23:55:55.84 ID:sqX0TyW40
暑さがジリジリと伝わる今日この頃。夏本番はもう少し先だけど、もうみんなは既に夏気分。
アタシと恭子と理沙、仲良し三人グループなんて呼ばれるアタシ達は今、高校の教室の中に居る。
長い雑談もそろそろネタが尽きかけてきた頃、日が暮れ始め、この教室を赤く染めていく。
そんな時間にもなると、他に教室に残っていた生徒達も帰り、アタシ達三人だけがこの教室に取り残されたようだ。
お邪魔虫が居なくなった、アタシ達だけの静かな教室。
「よし、そろそろ良い頃合ね!」
恭子が待ってましたと両手をパンと叩いて言う。
「うん?何が頃合なのさ?」
アタシがどんな顔をしてたのかわからないけど、恭子と理沙は二人揃って同時にため息をつく。
「アンタ、ホントわかってないの?」
アタシは知ってるのに質問をするような、意地悪な性格じゃないの知ってるくせに理沙が聞いてくる。
「うん。だから、早く教えて」
「や〜だね」
「理沙、もうこんな時間なんだし、からかうのもやめなよ」
単純なアタシに、対照的な理沙。いずれ喧嘩に突入しそうなのを事前に押さえる恭子。
この三人だからこそ、良いチームなんだと、今また思ってしまった。


746 名前: ◆aWbG51RQSw :2006/06/04(日) 23:57:02.19 ID:sqX0TyW40
「で、何の頃合なのよ?」
ちょっぴり間を空けてアタシは再び同じ質問をする。
「恋のお話よ」
仕方ないか、といった表情で言う理沙。ちょっとだけこの表情にムカっときそうだけど、まぁそこは押さえて。
「正解。もうわたし達以外人も居ないし、丁度良いからね」
たしかに、人に聞かれるのは少し恥ずかしい話題。
もし盛り上がってきて、知らず知らずの内に声がとても大きくなって聞かれるのもヤだ。
「たしかに人が居ない方が良いよね」
苦笑いをしながらの返事。
…でも、アタシはこの話題は苦手。アタシには、想い人は居るけど告白できずただ想うだけ。
その人には噂がある。『今、付き合っている人が居る』と、言って女の子からの告白を断ったらしい。
彼は、恭子と理沙と同じく、中学の時から同じ学校で、結構仲も良かったからやっぱりショックだった。
「アンタさぁ、暗くなるのやめなよ」
アタシが暗くなってるのをいち早く察知したのは恭子だった。
「えーと、『コウキ』君だったけ?」
続けて理沙が一言。仲が良くても、あんまり触れてほしくないこともあるのに、かまわず言ってくる。
それでも、今のアタシにそんな怒る元気もない。
「あの噂のことかな。振られた子がたぶん自棄になって、周りに言いまくったんだろうね」
コウキは、バスケットボール部のエース。カッコ良くて、少し話せばその優しさが伝わるほど人が良い。
だから憧れるって人も多くて、その噂が流れた後、誰が彼女なんだろうって探す人も少なくなかったらしい。
ただ、特に『誰かが特別』っていう扱いはなかった、と尾行してた人達は口を揃えて言う。
それは彼女なんて居ないのか。それとも、アタシ達にも同じように対応してるだけなのか。
なんか、考えてるうちにどんどん自分の気持ちが沈んでいってた。


747 名前: ◆aWbG51RQSw :2006/06/04(日) 23:58:33.33 ID:sqX0TyW40
「あのね、噂って真実じゃないんだよ」
「え?」
「コウキの単なる嘘かも知れないってこと」
二人がアタシを励まそうとしてる。けど、なんか他人事みたいに軽く考えてるんじゃないか、と思ってしまう。
「わたしらに、怒る元気があるなら自分で噂の真相、突き止めなさい」
恭子が静かに話す。けど、その言葉にはなんとも言えない迫力を感じる。
アタシは顔で怒ってた。けど、それとは違って、その言葉で怒りを表しているようだった。
「本当のことがわからないから、噂っていうの。真実なんて知らないんだから、諦めたらダメよ」
「そそ、アンタのことはあたし達が応援してるんだからさ」
ガララ、と教室の引き戸が空けられる音。
「ん、オマエら何してんだ?」
教室に入ってきたのはコウキ。アタシが想う人。
「おー、噂をすればなんとやら、ってよく言ったもんだね。で、アンタこそ何しに?」
理沙がケラケラと笑う。少し笑い声を押さえながら言うが、あんまり発音が良くない。
「人に質問するなら笑いを押さえろよ。部活も終わったし荷物取りに来ただけだ」
そういってコウキはロッカーからバックを出す。そのバックからタオルを取りだし、濡れている髪を拭く。
「そっかそっか。じゃ、とりあえず私達は先に帰るね」
そう恭子が言うと、理沙も立ち上がり二人は、じゃあねと軽く手を振りさっさと教室を出ていってしまった。
突然のことに少しボーゼンとしてるとコウキが話し掛けてきた。
「お、どうした?なんか嫌われることでもやったか?」
「失礼なっ!アタシはそんなことしてない…」
言葉が詰まった。少し前、恭子達に対して怒っていたの思い出す。…今更、「そんなことしたかも」なんて言えない。
「ははっ、そうだよな。オマエら仲良いし」
会話が止まった。何を話せば良いのか困る。
―たぶん五分くらいたった。でも、もっと長かった気もするし、短かった気もする。
「ねぇ、コウキ。アンタ帰らないの?」
「あー、この時期油断してると風邪引くから」
相変わらず、髪にタオルを当てて乾くのを待ってるみたい。
うーん、予想してなかった返答にまた会話が止まる。
思い切って、ここはあの「噂」について聞くことにした。


748 名前: ◆aWbG51RQSw :2006/06/04(日) 23:59:20.07 ID:sqX0TyW40
「あのさ…あの、アンタの噂ってどうなの?」
「噂?なんのこった」
「付き合ってる人がいるとか、いないとか!」
思わず大声で叫んでしまう。
口元をすこし吊り上げて、意地悪そうな顔をするコウキ。
「聞きたい?」
「え、まぁ。一応ね」
「んじゃ、やーめた」
「ちょっとぉ!」
また、大声になる。この辺が単純といわれる理由なんだろうな、ってなんでか冷静に分析してた。
「ははっ!面白いなヤツだ…。あれは嘘さ」
「え?」
「だから嘘。うん、好きな人がいるからね」
「な、なんでそんな嘘を?」
好きな人が居る、なんてことより、そっちのほうが気になる。人が良いコウキだからそんな嘘をつく理由がわからない。
「だってさ、その子しつこそうだったから。オレってめんどーなのキライ」
実はいい加減な性格であったことをはじめて知った瞬間だった。
「で、で…好きな人って!?」
「居るよ。この学校に」
「だ、誰よ?」
こう、じらされるのは苦手。っていうかキライ。


749 名前: ◆aWbG51RQSw :2006/06/05(月) 00:00:13.88 ID:NWhLdwHY0
「今、この教室に居る人」
その言葉を聞いた瞬間、時が…止まった気がした。
「え…?」
「何度も言わせるな!オマエだ、オマエ!」
「う、そ…?」
「嘘吐いても意味ねーだろ。オマエがなんか勇気出して聞いてくれてるみたいだったからオレも言ったのに、酷いぜ」
体が少し熱くなるのを感じた。たぶん顔も真っ赤になってると思う。
「あ、アタシも、アタシもコウキのことが…っ!」
ギュっと、コウキがアタシのことを抱きしめてくれた。
心臓の鼓動が早くなる。アタシも、コウキの鼓動が早くなるのを感じられる。
「ずっと、好きだったよ」
一度、口付けを交わして、また夢のような気分に浸る。
それは、コウキがアタシの顔が真っ赤になってるのに気がつかない、真っ赤な教室で出来事だった。





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