【 季節の真ん中で 】
◆JUNm3.49.6




550 名前:季節の真ん中で ◆JUNm3.49.6 :2006/06/03(土) 19:13:44.82 ID:HSi+BxjYO
じめじめとした雑木林の中を、二人並んで歩く。陽の光が届かない林の中は薄暗く、時折吹き抜ける風は俺たちを優しくなでる。
正直俺はこの雰囲気があまり好きではないのだが、彼女がどうしてもと言うので仕方なく付き合っている。

彼女は2週間ほど前に病気にかかり、入院生活を余儀なくされた。だいぶ退屈していたのか、昨日外出が許可されるやいなや俺に電話してきた。
「外に出てもいいことになったから、明日二人で散歩にでも行こうよ。」
断る理由も無いので、俺は二つ返事でOKした。
そして今日病室を訪れた俺を、彼女はここに連れてきたのだった。


551 名前:季節の真ん中で ◆JUNm3.49.6 :2006/06/03(土) 19:15:36.76 ID:HSi+BxjYO
「この辺りかなあ。」
唐突に、彼女が口を開いた。
「何が?」
俺が尋ねると、彼女は喋り始めた。
「看護士さんが話してるのを聞いたの。病院の近くの林に、とっても綺麗な泉があるって。」
俺にはよく理解出来なかった。そんなもののために、わざわざこんな所を歩いているのか。
怪訝そうな顔の俺を見て、彼女は口を開く。
「ほら、病気の時は癒されることも大事でしょ?」
まあな、と適当に相槌を打って俺はうつむく。
足元には赤や黄の落ち葉。秋なんだな、ということが実感出来る光景だ。
その落ち葉たちを踏みしめながら、さらに歩き続ける。


552 名前:季節の真ん中で ◆JUNm3.49.6 :2006/06/03(土) 19:18:50.89 ID:HSi+BxjYO
ふと、視界が開けた。
「うわあ……。」
どちらからとも無く、声が洩れる。遮るものが無いこの場所にだけは光が降り注ぎ、豊かに湛えられた水とその周りを彩るコスモスを照らす。無表情な林の中にこんな場所があるのか、と思わずにはいられない光景だった。
「すごいね。」
彼女が言った。
「ああ。」
俺は、素直にそう答えることができた。





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