【 『ウパウパのせかい』ができるまで 】
◆swIhawKD96




98 :No.22 『ウパウパのせかい』ができるまで 1/4 ◇swIhawKD96:08/04/14 00:17:55 ID:P+bd93wT
 「先生。早く原稿描いてください」
編集さんから電話がかかってきたのはお昼を少し回ったあたりだった。
「ゴメンよぉ。まだ描くネタが浮かばないんだよぉ」
「先生。その言い訳おとといも聞きました。ところで昨日のカゼは良くなったんですか? 」
編集さんはいつものように無愛想な声で続ける。あはははバレてたか。
「そんなに怖い声で言わなくたっていいじゃないのぉ。あたしだって昨日から寝ずに考えてるんだからぁ」
「そのわりには後ろから笑い声が聞こえますが」
しまった。テレビつけっぱなしだった。
「き、気のせいじゃないかなぁ。ソラシドだよぉ」
「空耳ですか? 」
「そう、それぇ」
はぁー。露骨なため息が受話器越しに聞こえる。編集さんが今どんな顔をしているのか
わかってしまう程にリアルなため息。
 「わかりました。じゃあボクも一緒に考えるんで先生もネタを出してください」
「ありがとぉ。あたし、どんなに感謝していいかぁ」
「はいはい。これも編集の仕事ですから。締め切りを延ばしたら、また読者様が怒りますからね。とりあえずどこまで描けているか教えてください」
えーっと。脱ぎ捨てた服やら、食べ捨てたお菓子の袋やら、読みつぶした雑誌やらが転がった居間を横切り、隣の仕事部屋の扉を開ける。
とりあえずはキレイな状態をキープしている部屋のスチール机の上、描きかけの原稿が窓ガラス越しに差し込んだ光にあたっていた。
「二十一巻第一章の収録分が八十七ページまでできてるよぉ」
「そうですか。じゃあその原稿を百二十ページくらいまで進めてください。百二十ページあれば、第一章はなんとかなりますから」
仕事机のイスに腰掛ける。うぅ硬い。
「うーん。あたしとしては八十ページに描いた西の帝国の不況をポイントにしたいのぉ」
「あぁ。こないだファックスしてもらったやつですね。その不況が世界全土に波及するという展開はなかなか見ものでしたよ」
「東の共和国と戦争させるってのはどぉ? 」
困った時は戦いに走る。まさに王道。

99 :No.22 『ウパウパのせかい』ができるまで 2/4 ◇swIhawKD96:08/04/14 00:20:29 ID:P+bd93wT
「ダメです。その原稿の三十九ページで西の帝国は異教徒の王国と戦争したばかりじゃないですか。ただでさえ二十巻で全世界規模の戦争を二回もやったのに、これ以上戦争な
  んてさせたら読者様からまた苦情がきますよ」
「そうだねぇ」
仕事机の一番上の引き出しから読者カードひっぱりだしてみたら「展開が唐突過ぎます」「また戦争か」「ウパウパの学習能力が低すぎて寂しい」と手厳しいコメントが書いてあった。
「逆に平和路線に行ってみたらどうですか? 」
「平和路線? 」
 「例えば……東の共和国でスポーツ大会を開くとか。二十巻までのダークな部分を緩和させてみるのはどうでしょうか? 」
「うーん。あたしの中では東の共和国は西の帝国のライバルにしたいんだよなぁ。ほら前の巻で北の共和国が潰れちゃったでしょ? やっぱりライバルがいなきゃ盛り上がらないと思うの」
「そうですねー」
しばし沈黙。仕事場の窓の向こう雲が一つ流れた。
「虐殺ってのはどうですか? 実は東の共和国は国内の少数民族を虐殺していたってのは? 」
「ふむふむ。それでぇ? 」
「その虐殺に対して西の共同国家群が異を唱えてスポーツ大会に参加しないってのはどうですか? これならある一定の国家間では友好ムードが作れるし、かといって全てが丸く収まっ
ているわけではないので読者様もあきないかと」
「おっ。それいいねぇ。二十巻の第八章でも使った手だけど自分たちの歴史を生かせないウパウパらしいねぇ」
キュッキュ。あたしのペンが原稿の上を動いたのは何日ぶりだろう。
「おっけー。一ページ描けたよぉ」
「その調子です。ガンガン行きましょう」
編集さんの励ましの言葉に背中を押され。あたしもカラカラの頭をひねってみる。

100 :No.22 『ウパウパのせかい』ができるまで 3/4 ◇swIhawKD96:08/04/14 00:20:45 ID:P+bd93wT
…………
うみゃ。何も出てこない。
「ねぇ。戦争はダメぇ? 」
「ダメ」
「やーん。読者さんは厳しいなぁ。いいじゃないのぉ。いっぱい戦争したほうがウパウパのちょっぴりおバカば所がだせていいと思うのぉ」
「先生。読者様の中にはウパウパびいきの方もたくさんいらっしゃるんです」
「だってあたしのお友達の小説家さんはウパウパの一家一組とそれ以外の動物のつがいを一組ずつ残してあとは全部溺死させちゃうお話とか書いてるよぉ? 」
「小説家はいいんです。だいたいその小説は先生の作品のキャラクターを使った番外編的な物語じゃないですか? 」
「ふぇ そういえばそうだね」
「そうですよ。先生だって逆に聖なるウパウパをどう崇めるかで何回もウパウパたちに戦争させているじゃないですか? 
『聖なるウパウパの物語』もその小説家の作品ですよ」
「そうなんだぁ」
「『そうなんだぁ』じゃないですよ。まったく。能天気なこといってないで早く作品を書いてください。読者様がまた怒りますよ」
「リプリプの時みたいに? 」
「そうです。あの時も『お腹が痛いのぉ』とかいって先生がサボってくれたおかげで打ち切りになったじゃないですか。あの作品、巨大トカゲ帝国っていう発想
は素晴らしいと編集の間では評判だったんですよ」
「うぅ。あの時は本当にぃ」
「それに先生。二十巻の第九章、百三ページあたりで、この作品にも打ち切り騒動が起こってたって知ってますか? 」
「そ、そうなのぉ? 」
「そうですよ。あまりにも先生が遅筆なせいで、当時、『無名の小説家の作品のネタを使って、ウパウパの住むアオボシは隕石で爆発しましたっていうオチで締
めよう』って編集部内では固まりかけたんですから」
「うぇーん。リプリプの時も隕石オチだったのにぃ。ごめんねぇ。あたし、がんばるよぉ」
「頑張ってくださいよ。ウパウパたちの運命はひとえに先生のアイデアにかかってるんですから。おっと、キャッチホンが入ってる。先生、また電話するので原稿進めといてくださいね」
そう言うと編集さんの電話は切れてしまった。
プープーと繰り返す電子音があたしをせかす。
仕方ない描くか。
そこからあたしは集中した。相変わらずアイデアは浮かばなったけれど、どうにかこうにか昔使ったネタや、過去の話での伏線、新興国の台頭などを詰め込んで、勢いにまかせてペン
を走らせた。
「終わったぁ」
気がついたら窓の外はオレンジ色だった。こんなに集中して何かをしたのは初めてかもしれない。

101 :No.22 『ウパウパのせかい』ができるまで 4/4 ◇swIhawKD96:08/04/14 00:20:55 ID:P+bd93wT
「あたし。よく頑張ったぁ」
プルルルルルルル
自分へねぎらいの言葉をかけると同時に電話がかかってきた。この番号は編集さんだ。
「あぁ。すいません。掛け持ちの作品の打ち切りが決定してそのバタバタで――ところでどこまで進みました? 」
いつもクールな編集さんの声が上ずっていた。どこの作家さんも大変だなぁ。
「ふひぃ。なんとか全部終わったよぉ。疲れたぁ」
「お疲れ様です。良かった。これでなんとかこの作品も続きますね」
編集さんの労いの言葉。締め切りギリギリで滑り込むあたしにいつもくれる言葉。
その言葉に今日は一段とじんときた。
「ねぇ編集さん。あたしはいつまで描き続けられるのかなぁ。なんだか自分に才能がない気がしてきたよぉ。ホントにあたしの作品って面白いのかなぁ」
弱音がポロリ。最近どのネタも二番煎じ気味で自己嫌悪だ。
「何いってるんですか。少なくともボクは先生が新人賞に送ってきた『第三惑星アオボシ』のころからのファンですよ。泣き言ならこんどまたゆっくり聞きます」
またもやじん。
「ありがとねぇ。あたし次も頑張るよぉ」
「そうです。その息です。それじゃあ早く作品を送ってくださいね。創造主様たちが作品を待ってますよ。読者様あってのマンガですからね」



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