【 彼女 】
◆MWvsskuWWc




102 :時間外No.01 彼女 1/2 ◇MWvsskuWWc:08/04/14 01:00:39 ID:Cm7nVdTy
 近頃、意識が時々途切れてしまう。失神するとか、突然倒れるとかそういう事ではない。
日常の些細な出来事、例えば誰かが私のデスクの上へとお茶を持ってくるとする、その時
突然、過去の情景が現実と重なりあい、気づけば私の目の前でどこか色あせた過去の情景が
再生されるのだ。それは見飽きた映画を繰り返し見るようなものだ。完璧なタイミングで
繰り返される台詞に、リアクション。私はそれを黙って見ている事しかできない。そうし
て、気がつくとまた現実のデスクに座っており、先ほどまで湯気が立っていた湯のみは、
ぬるくなってしまっている。どれほど過去の情景に囚われていたのか、時計の針を見れば
大体十分ほどだろうか、そうして私は現実と言うリアルな色彩にいつも眩暈を覚えるのだ。
 意識がまるで振り子のように現実と過去を繰り返す。こんな事になったのは、彼女との
別れのせいだろう。というのもこうした症状が出始めたのは、彼女と別れた時期と一致す
るし、繰り返される過去の情景には常に彼女がからんでいるからだ。
 恋愛、それは人を狂わせるというが、本当に人は狂ってしまうのだ。
私は彼女のことを愛していた。そう、私と言う全てを捧げて愛してたいたと言ってもいい。
彼女の喜ぶ顔を見るためならなんでもした。私が死ねば喜ぶというなら、喜んで私は自分の
命を絶っただろう。

103 :時間外No.01 彼女 2/2 ◇MWvsskuWWc:08/04/14 01:00:54 ID:Cm7nVdTy
 しかし現実は非情だ。
 私の思いは届かなかった。彼女は去ってしまった。いや、彼女は私の元には着てくれなかった。
信じられなかった、これほど彼女を愛してるのに、誰よりも愛してるのに、この真実の愛が
まさか受けいられないなんて。これほど愛してるのだから、これは運命だとさえ思っていた。
そんな想いは粉々に砕かれた。たとえ私が死んでしまおうが、彼女には関係ないのだ。彼女の
世界にとって私は運命の人でも何でもない、ただの端役のようもの。クリスマスにめずらしく
振った雪のような、彼女の人生の隅っこに飾られたぬいぐるみようなものなのだ。信じられる
だろうか、私にとって人生の全てであったとしても、彼女にとってはとるにたらない出来事で
あるのだ。
 私はぬるくなった湯飲みをつかみ考える。今の仕事をいつまで続けられるだろうか、もうすで
に仕事は片手間になり、業務をこなすのさへ難しくなってきている。はやくこの過去と決別せね
ばならない。私は見栄も外聞も捨てて、精神科にいくべきだと、遅いぐらいだと分かっている。
 しかし、私は彼女の面影を過去の情景であったとしても見られることに、安らぎを感じている。
自分が狂人の仲間入りをしようとしているとしても、彼女との過去を情景をまざまざと体感でき
るなら構わないのではないのかと。微笑む彼女、その笑顔に何の汚れもない、私を見つめて無垢
の笑顔を見せてくれる。君はなんと美しいのだろう、そして何てすばらしいんだろう。正直なと
ころ、いずれ精神科のやっかりにならなければならないとしても、今はもう少しだけ過去におぼ
れていたいのだ。いや、本当のところこのままでいいのではないだろうか。そうだ、私の愛が叶
わなくとも良いではないか。私はこの過去と言う頭の中で繰り返されるこの時に生きればいいで
はないか、彼女の笑顔がそこにある。それだけでいい、私は声を大にしていいたい。
「かがみんは俺の嫁だ!」と。



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