【 ここ一週間における漫画界の大事件について 】
◆AF/vufH7mQ




7 :No.02 ここ一週間における漫画界の大事件について 1/4 ◇AF/vufH7mQ:08/04/12 18:12:19 ID:BYK3/TgN
 おれの趣味はマンガを立ち読みすることだ。それ以外に趣味はない。時々、
立ち読みできなかったマンガの単行本を買ったりするけど、四大週刊誌などは
立ち読みですましている。出版社のみなさん、漫画家のみなさん、もう、何年
も立ち読みですいません。おれは読んだマンガに相当するだけの金額をマンガ
界に支払っていないのは確実です。おれは無料でマンガを読みつづける邪魔な
読者のひとりにすぎません。でも、時々は単行本を買っているので、許してく
ださい。
 そんな、おれだが、最近、マンガ界に起きた一大事件について、いたく深い
衝撃を受けている。この事件は、おれの愛するマンガ界にとって、とてつもな
く大きな損失をもたらすものであり、マンガ界全体の面白さ放出度を著しく停
滞させるものだと思われる。マンガを愛するおれにとって(立ち読み読者では
あるが)、この事件に非常に深い関心を寄せている。
 この事件は、そろそろ長い歴史をもつにいたってきたマンガ史にとてつもな
い印象を与えて、記録されるであろう大事件であり、全国多くのマンガ読者の
気力を奪い、大きな挫折感を味あわせるであろうことはまちがいない。
「最近、面白いマンガねえなあ」
 というのは、齢三十歳になるおれが中学生の頃から聞きつづけてきたことば
であり、それでもみんな夢中になってマンガを読んでいるのであり、愚かな一
般大衆に面白いマンガがないと思わせながら、実はマンガ界が面白いマンガを
どこかでつくりつづけているのは、もう、揺るぎのない事実であると思われる。
その中でも、最近の面白いマンガとして、全国の読者に大きな影響と熱狂的な
注目を集めていたであろうとある作品に起きたできごとについて、おれはここ
に書き記そうと思うのだ。

8 :No.02 ここ一週間における漫画界の大事件について 2/4 ◇AF/vufH7mQ:08/04/12 18:12:38 ID:BYK3/TgN
 その大事件とは、もう誰もが知っているであろう某週間マンガ雑誌における
隠れた看板漫画であったあの歴史的大作の完結である。ここまでいえば、もう
なんのことだかわからない者は、この漫画大国である日本には一人としていま
い。情報の伝達の早い漫画愛好家たちで、この大事件はものすごい速度で全国
に広まっていったと思われ、全国で完結の喜びともう来週からこの漫画を読め
ないという悲しみで、喜びの涙と悲しみの涙の両方がとめどもなく流されてい
ったことだろうと思う。歴史的名作漫画の完結は、漫画愛好家に大きな困惑を
もって迎えられるものであり、嬉しいのか悲しいのかもわからない涙の果てに
は、ただ「作者よ、ありがとう」とのことばが胸の中で高まるのを感じるのみ
である。
 その、マンガ界におきた歴史的大事件とは、もう、ここまでいってわからな
いものはひとりもいないであろう。そう、誰しもが喜び跳びついて真っ先にそ
のページを探し、むさぼり読んでいたあの名作漫画の突然の最終回の到来であ
る。
 なんと、週間少年マガジンに連載されていた野中英次の「未来町内会」が今
週、突然、最終回を迎えたのである。おれは悲しい。これから、どの漫画を楽
しみにマガジンを読めばいいんだ。もう「未来町内会」が読めないなんて。
 おれは悲しみを癒すために、友人にこの話を持ちかけた。
「おいおいおいおい、聞いてくれよ。読んだか、今週のマガジン。びっくりだ
よなあ」
 友人は答えた。
「ああ、マガジン読んだけど、何かあったか」
「何って、大事件があったじゃないか。びっくりだよ。おれはショックで読ん
でから欝だよ」
「大事件って、何かあったかあ。いつもどおりだろ」
「バカヤロウ。あの『未来町内会』が完結しただろうがあ」
「悪いけど、おれ、マガジンは『はじめの一歩』と『賭博覇王伝零』しか読ま
ないから」

9 :No.02 ここ一週間における漫画界の大事件について 3/4 ◇AF/vufH7mQ:08/04/12 18:12:57 ID:BYK3/TgN
 おれは友人のことばにショックを受け、しばし意識を失うかと思った。
こいつ、ひょっとしてマガジン読者のくせに、『未来町内会』を知らない?
まさか、そんなことがあるのか。立ち読みしかしないおれは、たいていの
漫画を読み飛ばしているのだが、そのおれが毎週かかさずに読んでいた漫画
のひとつなんだぞ。
「おまえ、『未来町内会』を知らないのか。あのなあ、今週、突然、何の前
触れもなく最終回を迎えたんだぞ。全国の読者がきっと悲しみの涙でくれて
いるはずなんだ」
「あのさあ、『未来町内会』のことはよく知らないが、それって打ち切りじゃ
ないのか。まあ、マガジンからまたゴミ漫画がひとつ消えたんだ。いいこと
じゃないか」
「バカヤロウ。打ち切りのわけあるかあ。あの野中英次が打ち切りなんてこ
とがあるわけないじゃないかあ。壮大な構想のもとに練られた計画的な最終
回に決まってるだろ。この突然の最終回は、のなーの計算されたドッキリの
ひとつなんだよ。なぜ、おまえにはそれがわからないんだあ」
「まあ、落ち着けよ。おまえ。おれにとっては、『未来町内会』が終わろう
と始まろうと、別にどうでもいいことだからよ」
「ふざけるなあ。いいか、よく聞け。さすがののなーも、最終回にはやはり
救世主を中心にもってきたな。さすがに読者の需要を見きわめた適切な判断
だ。よく、おれたちの気持ちをわかっているといえる。おれは救世主が平田
教に勧誘された時、これからどうなるんだろうって、はらはらして読んでい
たもんだ。それが、のなーは、のなーは、のなーは最終回に自分で巻末コメ
ントを書いているんだぞ」

10 :No.02 ここ一週間における漫画界の大事件について 4/4 ◇AF/vufH7mQ:08/04/12 18:13:14 ID:BYK3/TgN
「だから、落ち着けよ。それから、のなーって何だよ。意味わかんねえよ」
 おれは血の気が引くかと思った。
「のなーっていえば、野中英次の愛称に決まっているだろ」
「あいつ、あんなマイナー作家のくせに愛称なんてあったのか。くだらねえ」
 おれは、おれはこの憤りをどこにぶつけたらいい。こいつは漫画のことなん
て、何にもわかっちゃいない。
 おれは、おれは最後にひとこといいたい。野中英次よ、感動をありがとう。
 野中英次作『未来町内会』完結に寄せて。
                                  了



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