【 脱ぎ捨てよ灰かぶり 】
◆mIDuRTu8CI




75 :No.19 脱ぎ捨てよ灰かぶり 1/5 ◇mIDuRTu8CI:08/03/31 00:12:34 ID:X/hXXi0w
 夜の長きは、彼女にこそあって然るべきだ。
 その乙女は、日の出ているうちを全て家事労働に費やしている。炊事洗濯掃除その他諸々を、蟻さながらの働きっぷりで
ひたすら奉仕している。女王様は、彼女の父親亡き後いとも簡単にこの家を掌握した義母と義姉二人だ。働きもせず雑誌を買ってこいだの
延滞したDVDを返してこいだの言いつけばかり卵の代わりに産み出して、彼女を非常に困らせている。
 そればかりでなく些細な嫌がらせを、日々隙なく満遍なく与えられているので、昼間は心休まることがない。白日の下の彼女はかたちだけそうであって中身が殺されて
いるようなものだ。暴力と罵倒と恫喝に屈服した虫けらだと義姉たちはよく嘲笑していた。
 彼女の休息は義母と義姉が寝静まってから、再び日が昇るまでの、ごくごく僅かな時間であった。彼女はやっと自分を取り戻せる。必定の六時間睡眠の前に少しだけ、やりたいことをする。
死んだ本当の父母のために祈ったり、中二病全開の詩を書いたり、ひっそりとパソコンを起動して掲示板に義母たちの悪口を書き込んだりしていた。「ニートババァども氏ね。さっさと氏ね」。
一部なんだか若干間違っている気するが、哀れな彼女の楽しみを誰が邪魔できよう。ただ登る太陽だけである。時たま義母たちが夜会などで外出してその時間が長くなることが喜びであった。
屈従とささやかなる反抗の二重人格を使い分け、少々ひねくれるようになった彼女だが、それでも限りない美貌の乙女なのである。泥まみれでも埃だらけでも一挙手一投足に玲瓏たる鈴の音が
ちりりと音を立てるようであった。それがますます義母たちのSっ気を刺激していた。彼女はいよいよみすぼらしい身なりになっていき、汚らしくなっていくことこの上ない。またひねくれていくこともこの上なかった。

 ある日曜日の夕暮れ、義母たちはお城へ舞踏会へと出掛けていった。パソコンも使える世の中なのにどうしてお城に舞踏会があるのかと尋ねられても、その経緯は省くより他ない。長くなるし話の本筋がそれるからだ。とにかく彼女が生きる世は中世
の趣を残した絶対王制の文明社会なのである。
 さて、恐らく義母たちの帰りは酷く遅くなるのだろう。彼女にとっては喜ばしいことの筈だった。鬼のいぬ間に掲示板。なのに、彼女は呆然と床に膝をついたまま動けなくなっていたのだった。
決して罵詈雑言に屈しなかった涙腺までもが崩壊し、腕に抱きしめる炎のように真っ赤なドレスは、びりびりに破かれている。
専らの噂、舞踏会は国王の一人息子、つまり王子が独断で主催したお妃選びとのことだ。貴族ばかりでなく国中の娘という娘が年齢お構いなしに参加するらしい。お妃になれるチャンスとあらば仕事だろうが
 彼氏とのデートだろうが親の介護だろうがなにもかも投げ出して行くのだろう。わざわざ短いスカートをはいて、古式床しく冷暖房を大昔に倣う古城でふるふる震える癖に、隙あらばパンチラでウブな王子を誘惑しようとするのだろう。いや、これは彼女の想像にす
ぎないのだが。
 もちろん彼女は育ちのいい王侯貴族の絹のパンツより粗野であさましい庶民のプリントパンツに憧れる馬鹿王子に興味は毛ほどもない。しかし彼女には今回どうしてもという理由があったのだ。それを考えると殊更に彼女は泣けてくる
のだった。
 彼女がダイニングテーブルを見ると、真っ黒焦げなミートパイが鎮座している。「早く食べろ」と恐喝するようにひどい黒焦げだ。義母が唯一彼女のために作ってくれる食事だった。食べ続ければガンの可能性が、食べなければ餓死の危
険性が、と一つで二度まずいいわばバイオ兵器なのだ。だから彼女は別に食料を確保する必要があり、どこかの夜会に忍び込んでは料理を掻っ払い、飢えを凌いでいた。しかし最近は義母の監視が厳しく叶わずじまい、
ついにストックは一食分となり則ち週が明ければ自ら殺戮兵器を口にしなければならなくなったのだ。然るが故に今日の舞踏会にはなんとしても行かなければならなかったのだ。女たちは王子を見るだろう。王子はパンツを見
るだろう。食物をねこそぎ腹に詰め込み持っていく姿を気に留めるはずはない、と彼女は考えていた。
 なのに必死に隠し通していた母のドレスを、当日目敏い義姉に見つけられただの布切れにされてしまったのだ。

76 :No.19 脱ぎ捨てよ灰かぶり 2/4 ◇mIDuRTu8CI:08/03/31 00:16:21 ID:X/hXXi0w
 ――生きたい生きたい生きたい。彼女は心の中で繰り返す。脳裏にはゲームのセーブデータが消えて震え泣く母の姿が浮かんでいた。
 彼女の母はテレビゲームが好きで豪気な人であった。父はヘタレであった。なので家の一切は母が仕切っていたのだ。約束を守ることを至上の美徳とし、自ら「ゲームは一日三時間」のしつけを守り、彼女にも徹底的にそれを叩き込んだ。
その断片が睡眠時間だということは言うまでもない。
 彼女が一番よく覚えているのは家で時節構わずいちゃつこうとする父に対しての姿だ。母は足払いをくらわせ崩れた両足を取り、ジャイアントスイング体勢の後、その間に体を入れ肩足で父の一物をみしみ
しと踏み付けたものだった。父は苦悶とも恍惚ともとれる気持ちの悪い表情で呻いていた。母曰く「やたらめったら求めてくる男は悪」だったのだ。この技もまた彼女に徹底的に教え込まれた。
そんな母はご覧の通り、ひょんなことで死んでしまった。悲しみにくれた父は独りに耐え切れず出会い系で新たな伴侶を探し、請求をくぐりぬけて義母と出会ったが、しこの義母は何のデレ要素もない単なる子連れドS、
すぐに父は心労で母の後を追ってしまったのだ。
 不審な死に方で虐待問題が表面化し後の世が少しは暮らしやすくなるとしても、彼女に自己犠牲の気は毛頭なく従って死にたくはないのだった。しかしドレスがない以上厳重な警備の社交場に忍び込めるわけもない。こじきは追い出されるのがオチだ。
底無し沼のように深い絶望のせいで、不意に彼女に吐き気が込み上げてきた。しかし何が腹に入っているというわけでもなく、空えずきであった。そして泣くだけ泣くと強烈な眠気が襲ってきた。初め彼女は首を振って、瞬きを繰り返して抵抗しますが、
意識はどんどん緩やかなベールに巻き取られて行くようだった。やがて、諦めて彼女は現実逃避を受け入れることにした。泥のように眠り始めた。

 急に彼女の目の前が明るくなった。ダイニングは温かなオレンジの光に包まれている。もう日は昇り朝が来たらしい。
「おはよう。いつまでも暖炉の前でまごまごしていちゃ駄目ですよ。さぁ、起きて朝ご飯をお食べなさい」
 見ると、窓から差し込む幾筋もの陽光を背にして母が肉を切り分けている。父はいない。まだ起きていないのだろう。彼女はのろのろ起きあがるとテーブルにつく。
「お母様、聞きたいことがあるのですが」
「どうしたのです?」
「昨日の夜眠れなくてお母様の部屋に行ったら、お父様が裸でお母様を組み敷いておられたのです。お父様はいつからあんなに強くなったのでしょうか。ぷろていんでも飲んでいるのでしょうか」
「・・・・・・! 見たのですね」
「はい。でもプロレスの邪魔をしてはいけないと思いすぐに自分の部屋に戻りました」
「・・・・・・そうですか。そうですね、人は裸の方が強くなることもあるのですよ」
「そうなのですか? 普通装備を増やして強くなるものだと思いますが」
「よく考えてご覧なさい。増えすぎた装備は邪魔になることが多いのです。ゲームだって重装備のキャラクターは動きが遅いでしょう。徒競走持久走反復横跳び、間違いなく不利です。
それにこれからの社会では当意即妙かつ絶妙のタイミングでの機敏な動きが求められることでしょう。機会を逃すことはあってはならないのです。思い鎧であるが故に目の前のお菓子に手が伸ばせないようなことは。
だから、何も背負ってない方が有利なこともあるのです」
「よくわかりません」
「まだわからなくていいのですよ。いずれ解ることでしょう。では、意味がわかるまでお母様と一つお約束しましょう。
あなたが何もかも失って素っ裸になったとしても、どんな恥をかいても、強い意志を持つのです。恥とか外聞とか見栄とかそういうものを背負うよりならば、裸であった方がましなのです」
 微笑む母の顔は逆光で見えない。
 いや、もう覚えていない、という方が正しいだろう。
 何故なら、彼女の過去なのだから。夢なのだから。

77 :No.19 脱ぎ捨てよ灰かぶり 3/4 ◇mIDuRTu8CI:08/03/31 00:17:24 ID:X/hXXi0w
 彼女が目覚めると、もう辺りは真っ暗だった。辺りの町にも闇が溢れていた。夢の母が背にしていた窓に、彼方のお城が燦々と輝くのが見えた。
 そうとう時間は経ったようで、時計の針は午前二時を指していた。彼女には繰り返し作業の合間のうたた寝のように思えた。
 彼女は少し瞼を閉じて、夢の内容をじっくりと反芻した。そして 生命を奮い立たせるように息を吐き、立ち上がった。ボロ布のような衣服を破るように脱ぎ、
母のドレスを纏った。彼女は思う。きっと、髪はぼさぼさで、ドレスには乱雑なスリットがいくつも入っていて、片胸をさらけ出した、
サバイバルでもしてきたみたいな姿だろう。
「駆けなさい」
 母の凛とした声が聞こえた気がした。背中を押されるようにして、彼女は戸締まりもせず家を飛び出した。泥棒が入ろうがしったこっちゃなかった。
第一彼女だけなら盗まれるようなものは何も持っていないのだ。
 夜の街を闇に紛れて狂走していった。風景はどんどん後ろに流れて、過去になっていった。馬にでもなったかの如く、刺すような冷気を切り裂いて直走った。
するとひゅうひゅうと笛を吹くような音が背後で鳴る。風の楽隊と擦れ違っているようだった。
 しばらくして肩ひもを失っているドレスはずるずると落ちていき、上半身が眠りこける街に公開されてしまった。しかしそれを直している暇はなかった。
今にもあのお城の輝きが、なくなってしまいそうで彼女は怖かったのだ。足にもまとわりつくドレスを、脱ぎ捨て置いていくことにした。
 もう彼女の身体は何も身につけていない。生まれたままの姿だった。しかし、時折どこかの家の窓硝子に映る彼女の姿は、
灰色のボロ着を着ている時よりひどく美しかった。華美ではないが艶麗で、上質の肌色の絹を纏うようであった。
 裸足は宙に浮くようだった。音もなく地面を蹴って、先へ先へと進めた。
 目指すものはまだ遠くにあった。しかしじきに近付くだろう。今の彼女はは何にだって手が届く気がした。
 やがてたどり着いた城壁の大階段を、二段とばしで一気に駆け上がった。

 城に到達した彼女には言葉もなかった。
 異様な光景だったのだ。まるで突然現れた幽鬼が中身を食い散らかしたようだった。饗応の残滓として肉がそこら中に転がっているのだ。ただし、それらは、肌色の肉塊で、
他の誰かと抱き合ったり舐め合ったり結合したりしているのだ。 ゆらゆらと揺れる蝋燭がぬらぬらと彼らの満腔を照らし、気味悪く蠢いていた。
 「ぱんつが好きな馬鹿王子」の想像をを全力で否定せざるをえない。少年誌のサービスシーンに興奮するのではなく、とっくの昔に彼はナマモノが大好きな大人になっていたようだ。
 今の裸の彼女がこの場になじんでいるなんて、全く状況は異常である。彼女は首筋を誰かに嘗められた様な気がして、ぞっと震えた。
 夜の舞踏会――いや武闘会(性的な意味での)という乱交パーティに化していたダンスホールの入り口で、私が立ちすくんでいると、
「こんばんは美しいお嬢さん。どうぞ私と激しいダンスを」
 と、声をかけてくる者がある。

78 :No.19 脱ぎ捨てよ灰かぶり 4/4 ◇mIDuRTu8CI:08/03/31 00:18:04 ID:X/hXXi0w
彼女の心臓は今度こそきゅう、と縮んだ。正面から一人の男が近付いてくる。豪華なプラチナブロンドの髪を持つ青年だった。
 彼女は近視で、はっきりとは解らなかったが写真で見た王子にどことなく似ていた。たださっきまで運動でもしていたのかその髪は乱れている。
肩が上下して息もあがっているようだ。
言うまでもなく彼も素っ裸だ。下腹部の彼の息子は狭苦しい下着の自由から解放されて、いや解放されすぎていて・・・・・・お風呂場での父のモノしか
見たことがない彼女には形容のしようがなかった。とにかく火山のように隆起していて、
噴火直前の様な緊張を持ち、今にもマグマがあふれ出しそうだ。マグマとはなにかというのは言わぬが花。それがこちらに歩み寄ってくる。
恐怖としか言いようがなかった。
 彼女は赤面して下を向いた。目のやり場に困ったからだ。そんな様子もお構いなく、青年はやってくる。意識的に、接近する彼から後ずさった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、お嬢さん。大丈夫です、私に全て任せておけば――」
 彼女は、丁度いい距離まで来ると足を止めて顔を上げ、彼を直視した。
「いいえ、そうではないのです」
 ――間合いを取るためなのです。
 彼女はその場に屈んだ。そして瞬時に特技の足払い。バランスを失った青年は仰向けに倒れます。受け身を取れないまま彼は頭も打ち付けてしまった。
だが「うっ」と声を上げる暇も与えず素早く立ち上がると、彼の両足を取った。お察しの通りジャイアントスイングをするわけではない。
 振り子のように片足を後ろにあげて、戻る反動でで勢いあふれる蹴りを。
 悶絶する青年。引き続き股間をみしみしみしみし踏みつける。波止場でしましまTシャツを着、係船注に片足をかけてかこつける船乗りのような体勢で。
また、少し彼の両足を引っ張るようにしてやれば、威力は少しアップされます。踏みつけやすくなるだろう。豆知識。
 と、周りが何故かざわめき始めた。「王子様、なんであんなに絶倫なの!?」「おい、あの女、王子になにやってんだ!?」「取り押さえるべきか!?
いや、でも王子気持ちよさそうだし・・・・・・」「ちょっと、お母様あの子じゃないの!? 何やってるの!?」などと囁き声が聞こえます。
目も口も半開きにして涙やら鼻水やら涎やら色んな汁を垂らして震える青年は、死の淵での言葉のように「す、素晴らしい。ど、どうか私のお嫁さんに・・・・・・」と呟いている。
 ――しかし、構いません。
 彼女には目の前の青年のことなどどうでもよかった。母との約束を遂行したら、食料を頂いてさっさと帰る。それだけだった。
 もちろん、彼女は帰りも全裸で全力で、駆け抜けることだろう。



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