【 明日の朝日を見る前に 】
◆O8ZJ72Luss




27 :No.09 明日の朝日を見る前に 1/3 ◇O8ZJ72Luss:08/03/30 21:53:46 ID:3XCuot6H
 俺は夜の人間だ。
 俺が白昼堂々と仕事をする姿なんて想像がつかないし、俺が最も俺である時間は今日この夜だからだ。
 時計を見れば二本の針は揃って真上を指している。日付が変わって月曜日、そろそろ行動開始だ。
 静かに素早く慎重に、夜が明ける前に全てを終えなければ。
 仕事をする時だけに着る、とっておきの服を身に纏う。
 鏡の前に立って、自分の姿を確認した。
「………………」
 そこに映っているのは、目つきの鋭い痩身長躯の男。
 ガラの悪い顔に、異様なほどに派手派手しく可愛らしい衣装が、驚くほどに似合わない。
 俺がこんな姿だと知ったら、野郎共は笑うだろうか? 女子供は泣くだろうか?
 まあ、そんなことはどうでもいい。俺は俺の仕事をするだけだ。
 ……などとクールを装っても、自分が少し浮かれているのを感じずにはいられなかった。
 ワクワクするのは俺の役目ではないんだけどな。
 なんだかだんだ言ってもこれは俺の生き甲斐だから、気分が昂るのは仕方がないか。
 苦笑しながら、最初の目的地を目指して家を出た。

 ◆

 最初の場所は小さな民家。
 この小さな町の中でも、どちらかというと小さな部類に入る家だった。
 周囲はとても静かで、見上げた空には眩い星々が煌めいていた。
 少し離れた場所に立って、侵入経路を見定める。
 この家は……。

28 :No.09 明日の朝日を見る前に 2/3 ◇O8ZJ72Luss:08/03/30 21:54:11 ID:3XCuot6H
 おもむろに玄関に近付いて、道具を鍵穴に突っ込んで二、三度動かす。
 小さな金属音が聞こえて、鍵が開いた。
 呆れるほどに簡単だった。これなら素人だってちょっとやり方を憶えれば余裕だろう。
 無用心だとは思ったが、この小さな町においては夜中の民家に侵入する人間などほとんどいないのかもしれない。
 本当はこんな入り方はしない方がいいんだろうが、時代が時代だし仕方ないよな。
 っと、小さなことを気にしている場合じゃなかった。まだまだ先は長いんだからグズグズしてはいられない。
 音もなく許可もなく家の中にあがりこむと、寝室を目指した。

 ◆

 あれから数時間。真冬の真夜中の寒空の下にあって、俺は汗を流していた。
 正直に言おう。俺は今、結構焦っている。その理由は至極単純、予定が大幅に遅れているからだ。
 既に何軒もの家を回ったが、防犯意識が向上したのか侵入にかかる手間が半端無い。
 昔はどこに行っても最初の民家のように楽に侵入できたものなのだが、あの頃は良かったなあ、
 などと現実逃避している暇もなく、知恵と努力と根気でなんとか仕事をこなす。
 くそっ、意地でも朝が来る前に全てを終えなくては。

 ◆

 やっと……やっとここで最後か。
 一時はどうなる事かと思ったが、どうやら夜明け前に仕事を終えることが出来そうだ。
 でかいなこの家。まずは玄関をチェックしてみるか。

29 :No.09 明日の朝日を見る前に 3/3 ◇O8ZJ72Luss:08/03/30 21:54:35 ID:3XCuot6H
「………………」
 絶句した。最後の最後にとんでもないのが待っていやがった。
 この家の主はバカだ。きっとバカだ。そうに違いない。
 頼むからこんな田舎の小さな町で最新式の電子錠を付けるなんてやめてくれ。
 流石の俺でもこんなの無理だ、金が余ってるなら他につぎ込めこの野郎。
 そんな風に心の中では激しく自分勝手なブーイングが起こっていたが、努めて冷静に周囲を観察した。
 二階の窓だ。屋根に登って細工をすると、拍子抜けするほど簡単に道は開けた。
 おいおい、玄関だけ厳重にしたって意味ないだろう……。
 全くビビらせやがって、とか思いつつ内部に足を踏み入れた時だった。
 奥の方で警報のような音が鳴り響くのが聞こえた。
 全身を硬直させつつ辺りを観察すると、天井に小さな赤い光が見えて、なるほど赤外線センサーがあったのかと納得する。
 ………………。
 分かった、こいつばかだ!
 いや馬鹿なのは俺なのか。俺だろうな。とりあえず寝室まで行くのは無理だと分かった。
 どたどたと住人が走ってくる音が聞こえたので、止む終えずその場でやる事をやって逃げ出すことにした。

 ◆

「こんな日に泥棒に入るなんていい度胸だな!」
 叫びながら、バットを持った家主が走る。
 二階の廊下から正面の窓を見れば、赤と白の派手派手しい衣装を着た人物の背中。
 だが次の瞬間にはもう見えなくなり、すぐに夜の静寂が戻ってくる。
 もはや追いつくこと叶わぬと知って足を止めた家主は、窓際に置かれた紙に気付いた。
 傍らには、緑のリボンで飾られた大きな赤色の袋が置いてある。
「ん、これは……?」
 近付いて手に取ると、汚い文字で何やら書いてあるのが分かった。
「本当に勘弁してください。私の負けです。
 失礼ながらプレゼントはここに置いておきます。
 メリークリスマス       サンタクロースより」



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