【 ダイヤ 】
◆58wWTUZA1.




38 :No.09 ダイヤ 1/2 ◇58wWTUZA1.:08/03/23 16:42:33 ID:DSEkF2jw
なんとか平坦な道なりにふらふらと進むにつれて、
彼は道を道だとは思わなくなった。
何しろ相変わらず世界は原型を留めているし、
それらは私に無関心のようだ。
眼前は濁っている。
ふと動いた瞳は、ピクリともしない枯れた緑だけを映した。
少し遠いところに久しぶりに人間が現れて、
何故かとても体が疼いた。
顔が少し赤みを増して、指先が微かに震え、歩調が少し早くなった。
人間は割と赤い唇を曲げて、とても魅力的なものを差出し、代わりに最も大事なものを攫っていった。
眼前は濁っているが、数歩先には水が溜まっている。
ふとアクセル音が響いて、彼の足はパシャリと水を割った。
当然痛くは無い。ちょっとじっとりとはするが、それでも足は自然に動いた。
途端に私は私なのだと思えて興奮が抑えきれなくなり、千切れんばかりに腕を振り上げ、濡れた足を懸命に振り回し、
無茶苦茶に笑ってみると、それは世界を通り越して再び帰ってきた。

39 :No.09 ダイヤ 2/2 ◇58wWTUZA1.:08/03/23 16:42:56 ID:DSEkF2jw
彼は世界を蹴破る事に成功して、そうして一面は真っ黒だ。
世界は透明で、彼だけにはその事がはっきりと理解出来ているようだった。
だが、眼前はすっかり濁っている。
向こう側から髪の長い婦人がやって来て、彼にそっと微笑んだ。
テールライトが目を刺して、ネオンが輪郭を投影し、ふと彼は女性の後姿を追う。
わざとらしくフリルをひらひらやって、ウインクする。
女は角を曲がって、ショーケースに目を留め、ブティックに吸い込まれた。
後ろからわんわん泣きながら子供が走ってきて彼にぶつかり、首を傾げてのろのろ歩いていった。
母親が言う。すみませんねぇ。
彼の手はとってをのんびりと掴み、こじんまりとした彩りが飛び込んでくる。
二十歩歩くと更衣室に行き当たって、彼はすっとそこに入ろうとしたが、後ろから手を掴まれる。
子供は必死で無邪気な笑みを浮かべて、取り出した小箱を開いてみせる。
控えめなダイヤを湛えた大き目の指輪が転がり出て、私は一瞬私になった。
女が隣の更衣室から出てきて、彼より冷たい瞳を向け、急ぎ足でブティックを後にした。
子供は泣き崩れ、彼はもう後を追わなかった。
暫くするとわらわらと人がやってきて、彼は、小さな倉庫に押し込まれた。



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