【 ガラクタ 】
◆m7XPiAsnu.




16 :No.04 ガラクタ 1/3 ◇m7XPiAsnu.:08/03/23 10:10:30 ID:96sEBre5
 私は人型の機械。名前は付けられていない。
おそらく生活家電に名前が必要無いのと同じ理由。私の名前も不必要。
お茶がほしいと主人の声が聞こえた。ゆっくりと、ブリキの手で持つ。
フルフルと震えながらお茶を主人の元へ持っていく。
主人はお茶を受け取るとにっこりと笑った。私も嬉しい。
他は全て部品交換されて、元から残っているのは古びたブリキの手。
それも長年の稼動でボロボロになっていた。
「手が小刻みに震えてるね」
「えぇ、もうボロボロになってきてますね」
私はブリキの手をゆっくりと握ったり離したりして、動きを確かめる。
手を動かしながら主人の顔を眺めているとベルが鳴った。
主人は私の方を向いて言った。
「押入れへ」
私は押入れのドアをあけて、中に入る。
たまに主人のご友人が来られる。私は押入れから出ない。
「何?お前まだそんなポンコツ使ってんの?」
主人の友人が私を見て、そう笑った事がある。
主人がとても悲しそうな顔をする。私は主人のその顔を見ると、
私もすごく悲しくなる。だから私は人に会わないようにベルがなると
押入れに隠れる。
「もう帰ったよ」
そっと主人が押入れのドアを開けてくれる。
主人の顔を見るとすごく嬉しくなる。

17 :No.04 ガラクタ 2/3 ◇m7XPiAsnu.:08/03/23 10:10:57 ID:96sEBre5
ブリキの手が動かなくなった。
私は何度も命令を送る。だけどブリキの手は全く動かない。

主人はすぐに私を修理屋へ連れて行った。
「買い替えますか、修理しますか?」
私は修理室に運ばれた。私の手は落とされて、
「新しい手が来週に入りますから」
という修理屋の言葉が聞こえた。
「良かったな、最新の手を付けられるよ」

新しい手がきた。ずいぶんと綺麗に動く。
主人のために働いてきた手は今頃ゴミとして廃棄されているだろう。
ダイヤのように綺麗な新しい手。ダイヤの手は思い通りに動く。
自分の姿を鏡で映す。キラキラ光って綺麗な手。
修理屋から返してもらったブリキの手を付けてみる。全く動かない。
主人と手をつないだ時、家事をしている時、全ての記憶が詰まった手が、
ガラクタとして私の手の中にある。よく解らないけど、すごく悲しい。
     
     

18 :No.04 ガラクタ 3/3 ◇m7XPiAsnu.:08/03/23 10:11:17 ID:96sEBre5
主人に呼ばれた。いかなくてはいけない。
私は主人の部屋へと足を運ぶ。
「ブリキの手を貰える?」
私はそっとブリキの手を外して渡す。
主人は部品箱に私の手を詰め込む。私の体が全てその部品箱に入っていた。
「もう一つ新しいパーツを買ったんだ。ほら、記憶チップと思考ルーチンソフト、
 それにCPU。これで君は最新型と同じ性能になれる。
 もう押入れに入らなくても大丈夫だよ」

「ありがとうございます、ご主人」
私は主人にそっと頭部を差し出す。

主人が頭部の位置を確かめている。
「そういえば、昨日やらなくてはいけないっていう仕事は終わったんですか?」
「あぁ、終わったよ」

電動ドリルの音が聞こえる。
「小さい頃から、主人はいいかげんなんですから、ちゃんと見直して下さいね」
「あぁ、うるさいな・・・。解ってるよ」

頭部のチップケースが外れる音が聞こえる。
「あの、主人」
「もうちょっとだからちょっと待ってて」
「今までありがとうございました。機械はとても楽しかったです」
カチャリという音が聞こえ・・・・・・

主人の事をずっと助けてきた気持ちが詰まったメモリは
電流を失ってただのガラクタへ・・・。

End



BACK−ダイヤモンド・ガナッシュ◆gNIivMScKg  |  INDEXへ  |  NEXT−すれ違うダイヤと◆IPIieSiFsA