【 ロマン! 】
◆K0pP32gnP6




7 :No.02 ロマン! 1/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/22 14:52:33 ID:TS6zeWT2
 午後八時。
 晩飯の食器を軽く水洗いし、食器洗い機にセットして居間に戻る。
 智香はコーンチップスの袋を抱え、2人掛けソファの左に座ってクイズ番組をじっと見ている。
「おい、俺が当番のときだけ卵料理作るのやめないか?」
 ソファの右側に座りながら言ってやった。
 卵料理は下洗いしないと、食器洗い機だけでは流しきれない。
「偶然ぐうぜん。だってそこまで熱心に献立考えてないしー」
 智香はテレビから目をそらさず、天然なんだた狙ってんだか分らない珍回答を笑っている。
 心の中で溜息をつきつつ、俺はコーンチップスに手を伸ばす。
 袋の奥のほうまで手を突っ込んでも、指先にチップは触れない。
 不意に、智香は袋をつかんでいた手を緩めた。
「もう空だよー。捨てといてね」
 やられた。まあ、いつものことだけど。
 もう一度心の中で溜息をついてから、ソファから立ち上がりスチールのごみ箱に袋を押し込む。
 ふと、ゴミ箱の上に掛っている猫の写真の月めくりカレンダーが目に入った。
 三月二一日に、赤いひし形が付けたれていた。

 ソファに戻り、俺もクイズ番組を眺めていた。
 ふと思う。
「そういや、最近クイズの賞品で『ロマン輝くなんたら』って聞かないよな」
「んー、確かに。現金が多いかもね。それに……」
 それに?
「そっちの方が嬉しいでしょ?」
 やはりテレビを見たまま、智香は言った。
 まあ確かに、指輪より現金のほうがいいけどさ。
「ていうか、一般人が解答者の番組も減ったよな。なんでだ?」
「別にクイズ王見てても面白くないからじゃない?」
 質問に質問返し。

8 :No.02 ロマン! 2/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/22 14:53:30 ID:TS6zeWT2
「そうか? じゃあどんなクイズ番組なら面白いんだ?」 
「んー、最近の傾向はバカな解答者の珍回答を笑う、っていうのが多いんじゃない?
 性格悪いよね。そういうのが流行る世の中っていやだよ」
 いや、さっきお前それで笑ってただろう。
「今『お前もその性格悪い一人だろう』とか思ったでしょ。別にいいけどー」
「ああ、思ったね。謝らないけど。ちなみに俺は硬派なクイズ番組が好きなロマン輝く男だから」
「でもさ、そういうロマン輝くクイズの解答者って、なんか嫌味な感じするよね」
 遠まわしに俺が嫌味っぽいと言いたいのか? 別にいいけどさ。
「さて、それじゃあロマン輝く男さんに、第一問」
 急にクイズかよ。

「今日は何の日でしょう?」
 やはりテレビから目をそらさず、出題する智香。
「カウントダウンの日」
 求められている答えはわかるけど、あえてテキトーな答えを言う。
「…………違うよ」
 テレビに向けられた目が、すこし潤んだように見えた。瞬間焦って俺は答える。
「に、二周年。俺たちが付き合い始めて!」
「正解ー」
 笑顔をテレビに向けて、智香は続ける。
「第二もーん」
 と言って、間。某億万長者クイズの司会者並みの間
     

9 :No.02 ロマン! 3/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/22 14:55:09 ID:TS6zeWT2
 不意に、智香の笑顔が真剣な表情に変わる。
「私たちはそろそろ結婚するでしょうか?」
 それはクイズというより質問だろう。
 急な質問……というか、これはもはや遠回しな逆プロポーズ?
 いや、むしろ智香はこういうのを男に言わせようとするタイプじゃないのか?
 戸惑った俺は、口をパクパクさせた。
 智香はテレビではなく、俺の顔をじっと見つめている。
「あ、あれだ。ここで問題です。男女が付き合い始めてから結婚までの平均年数は!?」
 このセリフは間違いなく間違い。言ってから思った。
 しかし、智香は俺の目をじっと見たまま、
「二年」
 短くそう答えた。
 ちなみに、正解は二年くらいらしい。
「せ、正解」
「それで、第二問目の答えは?」
 真剣な眼差しが痛い。なぜ今日という日に、そっちから先に言ってきてしまうかな。
 こうなりゃ。
「お、俺からの第二問!」
 智香の真剣な表情に少し怒りが交る。 
「ごまかさないでよ」
     

10 :No.02 ロマン! 4/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/22 14:55:28 ID:TS6zeWT2
「第二問! 浅倉南を世界中の誰よりも愛しているのは……」
「上杉達也」
 問題は最後まで聞け。
「上杉達也ですが、おまえを世界で一番愛しているのは?」
 できるだけ淡々と、クイズの問題文を読むように言った、が最後の声が裏返った。
「えっと……」
 顔が赤いぞ。
 再びテレビのほうに向き直ってから智香は答えた。
「う、うちの親、とか? ほら、わたし一人娘だし?」
 智香のここまで照れてる姿を俺は初めて見た気がする。
 俺は黙って立ち上がり、玄関に向う。
「ごめん! 今の冗談だから!」
 なんか勘違いして謝ってきた智香を無視して、俺は玄関に置きっぱなしの仕事用の
かばんの中から『賞品』を取り出し、後ろ手に隠して持ちながらソファまで戻る。

「えーと、一問正解の智香さんにはこちら、ロマン輝く俺より、給料二ヶ月相当の、
 ダイヤモンドエンゲージリングを差し上げます!」
 智香の目の前にリングケースを突き付けて、開ける。
 勘で答えた難問クイズが偶然正解してしまった――みたいな表情の智香。
「あ、ありがとう。これは、現金より嬉しい……かも」
「えーとそれで、お前の出した二問目の答えは、今すぐにでも、だ」
 少しの間の後、智香は俺の目をじっと見つめ、一言。
「ファイナルアンサー?」
                                 おわり



BACK−幸福な王子グリム風カルパッチョ◆zsc5U.7zok  |  INDEXへ  |  NEXT−ダイヤモンド・ガナッシュ◆gNIivMScKg