【 オゾンホール 】
◆K0pP32gnP6




78 :No.20 オゾンホール 1/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/16 22:38:07 ID:XP4qbfqC
 すでに外は真っ暗で車の通りもほとんどない。
俺はとりあえずタカシとファミレスに入る。
席につき、まだ水が運ばれてきてもいないうちからタカシは熱弁をふるう。
「だからさー、今僕たちがこうしている間にも、どんどんオゾン層は破壊されているんだよ!」
 さっき、久しぶりに道端で会ってからずっとこの調子である。何か悪い本でも読んだのか?
「それは大変だねぇ。それで、オゾン層が破壊されるとどうなるのさ?」
「皮膚が焼けてしまう。そのおぞましい光景といったら!」
 やはり、何か悪い本でも読んだに違いない。
「そりゃあ、大変だ。人類も本格的に地下に移住を考えなきゃねぇ」
 俺が何も考えずにそう言い返すと、タカシは唾を飛ばしながら、
「だめだっ! それだけは絶対に!」
 おい、周りの客がこっちを見てるぞ。
「お、落ちつけ。で、なんでだ? 地下に眠っていた怪物共が目を覚ましちまうからか?」
 ノリだけで答えた。
 タカシは驚いたような――いや、変人を見るような、か――目で俺を見つめている。
 なんだよ。おかしい奴を見るような目で俺を見るな。変なのはお前だ。
「まさか、君も……」
 いいや、おかしいのはお前だけだ。俺を一緒にするな。
「未来人間なのか?」
 ダメだ、コイツ。何とかしないと。下手に刺激しても怖そうだが
「未来人間?」
「ああ、僕が勝手にそう呼んでいるだけだから……君はどう言語化するかな?」
 助けて、店員さん。早く水を。水を飲む間だけでもこいつを黙らせて。帰りたい。
 次の言葉を期待するように、タカシは俺をじっと見る。
 次の瞬間、テーブルに影ができた。ガラスがテーブルにぶつかる鈍い音が二回。
「ご注文はお決まりでしょうか」
 ウエイトレス登場。メニューを手にとり、軽く流し見て、
「えーと、じゃあ俺はビーフハンバーグビーフカレーを」
ドンッ、とテーブルが揺れた。正面を見ると、タカシが両こぶしを叩きつけていた。
「君は、何を見てきたんだ!」

79 :No.20 オゾンホール 2/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/16 22:38:32 ID:XP4qbfqC
 何って、メニューだが。なんて言い返せない雰囲気。ウエイトレスさんも驚いている。
「じゃ、じゃあチョコレートパフェの二〇〇グラム、ってやつを」
「僕はドリンクバーで」
「か、かしこまりましたー」
 再び、期待するようなまなざしを感じる。

とりあえず、パフェとドリンクバーが来るまで黙ることにする。
 タカシがいったい何を言いたいのか考えながら。
なーんて思っていたら、迅速にパフェとドリンクバーが到着。
「お待たせしましたー」
 待ってねぇよ。もっと待たせろよ。おい。
 店員はパフェと空のコップを置くと、早足で立ち去った。
 シンキングタイムほぼゼロ。
「し、しるもの」
 漢字で書けば、識る者。または知る者。
 意味深でわかりずらい、かつ問題があったのなら、味噌汁を注文してごまかす作戦。
「なるほど、未来を知る者、ってことか」
 何がなるほどだ、バカヤロ。でも、
「ああ、そういうことだ」
 テキトーにごまかしてできるだけ早く帰る作戦。
「良かった。仲間が見つかって」
 心底嬉しそうな表情でタカシは言った。
「そ、そうだな。俺も良かった」
「君以外は誰も僕の言うことをまともに聞いてくれすらしなかったんだ」
 え、まじめに聞かなくても良かったの? この話。
 それじゃ、君がパフェを食べて、僕がコーラを一杯飲んだら、行こうか。
ど、こ、に、だ。変な宗教のアジトかなんかか?
 俺はできるだけゆっくり、パフェを食べることにした。
          

80 :No.20 オゾンホール 3/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/16 22:39:00 ID:XP4qbfqC
 俺は一時間後、ドロドロになったバニラアイスとシリアルがぐちゃぐちゃになったものを食べ終えた。終えてしまった。
 タカシは六杯、さまざまなジュースやウーロン茶を飲んでいた。
 それでもトイレには行かなかった。だから逃げられなかった。
 俺はトイレに行ったが、トイレの窓小さすぎ。
「それじゃ、行こうか」
 俺が食べ終わって溜息をついたのを見て、タカシは言った。
「それは、店からでる、って意味だけですよね?」
 まずい、思ったことが口に出ていた。
「うん、それでもいいけどね。君の準備がないなら」
 よかった! 店から出るだけだって。
 俺は勢いよく立ちあがり、太ももをテーブルのへりに強打しながらも、伝票を会計に持っていく。ドリンクバーとパフェで九八〇円。千円を出し、
「釣りはいれねぇぜ」
 と述べながら、店の出口のドアに右手をかけた。
 店から出たら走って家に帰ろう、と思ったら左手をつかまれた。
「それじゃ、つなぐよ」
 な、に、を、だ! と思いながら力任せにドアを押し、タカシを引っ張るように店の外に出た。
 するとどうだろう。そこは見たこともない、なんというか、中東の紛争中の国の町のような場所だった。

「え?」
 自然に驚きの声が出た。
 後ろを振り返れば、廃墟と化したファミレス。営業してないことは必至。
 ていうか、いつの間にか明るい。昼間になってるし。
「さあ、行こうか。とりあえず、僕はよる所があるから、先に地下空洞の第三コウに行っててよ。そこで落ち合おう」
 タカシは走ってどこかへ行ってしまった。
 ちょっと、待て。という前に。
 すぐ追ったが、角を曲がったところで見失う。
          

81 :No.20 オゾンホール 4/4 ◇K0pP32gnP6:08/03/16 22:39:25 ID:XP4qbfqC
 ところで、やけに目が痛い。修学旅行でオーストラリアに行った時みたい。
 ふと、オゾン層の破壊、という言葉が頭をよぎる。
 何はともあれ、タカシを見つけるしかない。
『地下空洞の第三コウで落ち合おう」タカシはそう言った。
 それはどこだよ? 第三コウって、第三口? 第三出入り口的な?
 ていうか、地下空洞って。
 頭をよぎったのは『地下に眠っていた怪物共が目を覚ます」
俺が言ったことだけど。
 ファミレスが廃墟、ってことはここは……信じたくないが……未来?
 未来人間、ね。まんまじゃねーか。
 くっそ、とりあえず考えてもどうにもならないのはわかった。
 タカシと合流するのが最良の行動だ。
 でも、どうしよう。第三口の場所が分からない。
 人に聞こうにも、人がいな……いた。駆け寄る。
 グリーンの迷彩服に牛柄のフェイスペイントの体格のいい男……いや、皮膚自体が白と黒のコントラスト。牛男ですか?
「やあ、人間の旦那。こんなところで何してるんです? 地底人の掃討は我々、牛人類に任せて、安全な所に避難してください」
ああ、これはもう牛肉は食べれねぇや。牛さんに感謝。




環境破壊――特にオゾン層の破壊は、本当にいけない事だな、と思った。



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